第17話 開店は1ヶ月後?

 応接のソファーには俺と父さん、そして住民代表のフランクさんが座っている。


 ゲームの金と言われたことで、母さんたちは対応を俺たちに任せて、リビングに戻っていった。メイドのヴィヴィにお金を用意するように伝えていたので、今頃ゲームを楽しんでいるのだろう。


「それで、あれはなんでしょうか?」



 父さんが言う。あれとは、部屋に入っていても聞こえる、「金、金、金」の大合唱を指しているようだ。


 困ったように笑ったフランクさんは、指で頬をかく。


「急な訪問失礼しました」


 フランクさんが頭を下げるが、これは訪問なのだろうか。


「このように訪問したのはゲームに入ったお金を取り出せないかお聞きしたくて。ジャン君、取り出せるのですか?」


「お金。そっか、プレイするのにお金必要だからね」


 と言ってから、あれ?と思う。お金って取り出せるの?


「取り出せるのかな?」


 筐体だったら取り出せるけど、スキルで生み出したものだから……どうなんだろう?


 俺がうーんと考えていると、フランクさんが嘆息する。


「やっぱりそうですか」


「みんなが言っているお金は、ゲームに払ったお金のことなんですね」


 父さんが確かめる。フランクさんは「そうです」と頷く。


「みなさんゲームに夢中になって、代わる代わる延々とやり続けていたんです。ですが、ゲームをやるには銅貨が必要です。そのうち手持ちの銅貨がなくなり、家から持ってきた銅貨もなくなり、閉じていた店を無理矢理開かせて両替した銅貨もなくなり……」


 そんなにやっていたのか……。俺たちが帰ろうとしたときのリディーたちの反応を思えば、やり続けているのもわかるかな。


「わかりますか!」


 突然大声を上げるフランクさん。目は血走り、力強く手を握っている。


「銅貨がなければゲームができないんです!! ゲームが、できないんですよ!」


「ああ、はい……」


 父さんが引いている。


「ことの重大さがわかってますか!」


 バンバンバンとフランクさんがテーブルを叩く。


 あの優しいフランクさんがこんなにも荒々しくなるなんて……。これどうしよう。


 父さんと目が合う。お金は取り出せないのか?と目が語っている気がする。


「ジャン、お金が取り出せるかスキルを確認してみなさい」


「そうですよジャン君! やってみてください。いいですか。スキルに問いかけるのです。優しく、優しく。そうすれば、感覚でわかるはずです」


「わ、わかりました」


 2人から言われて、俺はなんとか頷く。


 教会のときのように、スキルに問いかける。


 すると、感覚でわかる。


「管理者を決めることで、お金を取り出せるようになるみたい」


「管理者! それは誰でもなれるのですか!」


 フランクさんがテーブルの半分まで体を乗り出してくれる。


「俺が指定すれば誰でも」


「ジャン、管理者を指定するにあたって、なにか制限や条件があるのか? 人数とか、能力値とか」


「ないみたい。何人でも、誰でもなれるみたい」


「それではさっそく私を!」


 フランクさんがバッと手上げる。


 教会にあるゲームなんだから、フランクさんを管理者にしたほうがいろいろと都合がいいよね。


「わかったけど、いいよね父さん?」


 念のため父さんに聞く。なにやら父さんが考えているみたいだからだ。なにかあるのかな?


「フランクさんを管理者にするのは賛成だ。ただ、管理者は今後はあまり増やさないようにしよう」


「それはいいけど、なんで?」


「これからゲームセンターとやらを作ることになるだろう。そうしたら、たぶんかなりの額が動くことになる。お金のもめ事は起きないほうがいいからね」


 言葉は濁しているけど、父さんの言っていることもわかる。確かに、売上金を持ち逃げされたら大変だよね。


 前世は家族経営だったから問題なかったけど、持ち逃げされた店があるって聞いたことあるな……。


「ゲームセンターとは? それに作るとは?」


 事情を知らないフランクさんに、父さんが説明する。1年後にゲームセンターを開店すること、それに向けて準備を進めることが決まったこと。


 といっても、説明することはあまりないから、すぐに話し終わる。


「それはいいですね! 私は大賛成ですし、街の人々も協力してくれます。協力があれば、来月にはお店を建てて開店できるでしょうね!」


 フランクさんが笑顔で言う。


 父さんは1年後って言ったはずだけど、なんで来月?

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