尋問
「起きた、ね?」
目を覚ますと椅子に縛られていた。ここは、外の景色から察するに離れの中の部屋だろう。
「長谷野さん……。」
いつもと変わらない様子で、長谷野は目の前にいた。
「いや、大した話じゃないよ。」
「……。」
「椎菜はさ、今回何か企んでるみたいだからね。話聞くにはこれがいいよ。」
尖ったナイフを俺の喉に当てる。つーと首筋から液体が垂れる感覚ーー多分、血だ。
「ちょっと人質になってもらおうと思って。」
長谷野は、ただのクズだということを思い知らされる。
「今回さ、椎菜が『バイトできないせいでお金に困ってるし、ついでに家の掃除がしたい。できれば友人も連れて来たい。』なんて言うからさあ、てっきり好きな人でも連れてくるのかなーって思ってたんだけどね。」
はあーあ。
わざとらしいため息。
「まさかこんなことになるとは。」
俺の方を一瞥して、
「君は無関係みたいだね、わざわざ聞いてくるくらいだし。」
「長谷野っ!」
ドアがいきなりあけられる。椎菜が入ってきた。
「あ、椎菜!」
待ってたよ、長谷野が軽やかにいう。
「どうして九薬を巻き込んだ!」
椎菜は怒ってるようで、肩を震わせている。
「掃除をしている間、俺の目を盗んで物色してくれたじやん。」
椎菜は少し動揺した。
「いや、それは。」
椎菜は焦る。
「九薬君を痛めつけたら何が目的か話してくれるかなって。ーー椎菜は何を企んでいるの?」
長谷野は俺の後ろに周り、首に刃を当て直す。
「ね、教えてよ。」
「……。」
「俺はさ、できることは全部してあげてたつもりだよ、ね?」
いつもと話すトーンがまったく変化がない。
それがますます異常さを感じさせた。
「椎菜がはじめて来た日、ずっと。」
俺の喉に一直線、線を引くようにナイフを動かす。
「椎菜が知りたがることも、やりたいことも、お金も、この屋敷も全部、あげれるものはあげたはずだよ?」
椎菜は黙ってる。
「人の家を物色してさ、挙げ句のはてには全く無関係の九薬君まで巻き込んでさ、そこまでしたいことって何?」
椎菜は黙ってる。
「俺のこと、殺したいの?」
「……違う。」
「ん?」
「違う、私はーー本当のことが知りたいだけ。」
「本当のこと?」
「母さんのこと、飛来さんのこと、全部聞いた。それでも、足りないんだ。」
「何が?」
「母さんが、何を考えて、これからどうしたいか。」
「藍蘭?」
「私を産む前から、自由が全くない状態なんだろ?飛来さんから過去のことを聞いてからずっと考えてたんだよ。」
「んー?話が見えない。」
「私は、幼少期からずっと母さんが苦痛のような表情をたびたび見た。父さんのことが嫌いなのも知ってた、でもだからこそ思うんだ。母さんの幸せってどこにあるんだろうって。」
君が幸せ生きてることじゃない?と長谷野が返す。
「違う、私にしているのは依存だ!母さんは私の人生や価値観を支配することで自分が幸せになっていると錯覚しているだけなんだ!」
椎菜は続ける。長谷野は黙って聞くだけだ。
「私はあの人達の子供だからこそ、もうこんなのはたくさんだ。私は誰かの生きがいでもなければ気を引くための道具でもない!私は私だ!」
だからもうあの両親のもとにはいたくない、今すぐにでも逃げたい。
「でも、同時に思うんだ。母さんには幸せに生きててほさしい。私じゃない、生きる意味を見つけて本当の幸せを掴んでほしい。」
椎菜はそこまで言うと、泣いていた。
「そのためには、飛来さんがどうして母さんの家族や母さんを痛めつけたのか、知る必要がある気がしてたんだ。」
「母さんの、人生を取り戻すための手段を私は知りたい。それが飛来さんたちに復讐することなら、私はそうする。」
長谷野は黙っていたが、口を開く。
「藍蘭の人生ね、ないよそんなもの。」
椎菜は言い返そうとするが、
「藍蘭は産まれてから今日まで、誰かに人生を支配される予定だったしこれからもそうだよ。」
椎菜が何をしようと関係ないよ、言い放つ。
酷いよ、大事にしてたのに。
「椎菜も結局あの人達の子供なんだね、悲しい。」
悲哀とも言える表情に、俺はすごく嫌な予感がした。
「椎菜!逃げろ!」
椎菜は慌てて小屋を出ようとするが、長谷野はそのまま椎菜の手を掴みねじ伏せた。
「あっ!」
「大人しくして。抵抗すればこのまま腕を折るけど。いいの?」
聞いたことのない冷たい声にゾッとした。
「い、いや。やめ。」
「長谷野さん!頼む、落ち着いてくれ!」
「は?俺は冷静だよ。君もしばらく黙っててくれる?」
はっきりとは言わなかったが、椎菜の指を反対方向に折り曲げようとした。
「頼む、言う通りにするから、椎菜にもさせるから、酷いことをしないでくれ。」
俺は祈るような気持ちだった。
「はぁ。わかったよ。」
長谷野は椎菜も縛りつけた。
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