風呂

シャー。

シャワーの音がドア越しに聞こえる。

夕食の後、風呂に入れてくれることになったが、一緒に入るわけにもいかず長谷野と2人で扉の外にいることになった。

「長谷野さん。」

「何?」

「俺たちこれからどうなるんですか?」

「夏休み終わる前には解放してあげるよ。」

「思ったよりも早く解放してくれるんですね。」

「椎菜や君のことが嫌なわけじゃないからね。」

長谷野はいつも通りだった。

切り替えが恐ろしく早い。

椎菜を押さえつけたときと表情が全く違う。

「やっぱり明日の朝だ。」

「え?」

「でも、もう2度とここには来ないでくれ。藍蘭の顔がちらついてならん。」

「……椎菜のお母さんのこと、今も恨んでるんですか?」

「……。」

長谷野は今まで見たことないような表情で睨む。

「それ聞いてどうするのさ?」

「……。」

「昔、同じこと椎菜に聞かれたことあるよ。」

恨みとは違う望郷の目をしていた。

「どうでもいいよ、今の藍蘭なんて。」

「……どうでもいいって、じゃあこの状況は?」

椎菜や俺を監禁するようなマネをしているのか説明がつかない。

「椎菜に利用されたみたいで嫌だったんだ。関心がないだけで、あの女の幸せに加担したくはないからね。」

「……だから脅したのか。」

「全く効かなかったけどね、椎菜ピンピンしてるもの。君は怯えたけど。」

「……何だよ。」

図星だ。

椎菜が骨を折られそうになったときに咄嗟に『椎菜にも言う事を聞かせる』と宣言してしまった。

あの時、椎菜はどんな顔をしていたんだろう?

「俺相手にそれは問題ない。殺す気はなかったからね。」

指を折る気はあったのか。

「でも、椎菜がこれから会う奴らはそうはいかない。」

「……このあと椎菜が何をするかわかるんですか?」

「予想に過ぎないけどね。」

「椎菜はこれから何を?」

「真相を探りに行くんじゃない?」

「……真相って。」 

「俺のかつての相棒のチバノ、手伝ってくれた樹里ーー椎菜は彼らに会うつもりだよ。」

「そこまでわかってて、長谷野さんはどうしたいんですか?」

「静観するよ。」

それってつまり、椎菜が藍蘭のための幸せを模索することになるよな。

「意に反することになっても?」

「ああ。」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る