無鉄砲

椎菜は下着姿になっており、俺は見ないように背を向けていた。

「大丈夫。椎菜は腕痛くない?」

「ああ。」

声はからも動揺していることがわかる。

「俺たちどうなるんだろうね。」

「わからない、あんなに怒った長谷野さん見たことない。」

椎菜は震えていた。

沈黙する。

「殺されるかも、しれない。」

不意に手のロープが引っ張られる。

椎菜は怯えながら、俺のロープを噛んでいた。

「えっ、どうしたの?」

「はさみがないから時間かかるけど、九薬だけでも外さなきゃ。」

「椎菜……。」

椎菜の吐息が手に当たるが、それに対して感情を抱くより先に恐怖だった。

長谷野がくれば俺たちはどうなるかわからない。それでも、椎菜は諦めようとはしてない。 

俺も決意を固めなければと思った。

だが、いきなりドアが開いた。

「2人ともどうしてる?」

椎菜は慌ててロープを口から離すが、もう遅い。

長谷野にしっかりと見られていた。

「さっきの脅し足りなかった?」

冷たい声に変わり、椎菜の髪を引っ張る。

そして、床に椎菜の頭を踏みつけて俺にこう言った。

「逃げたら、殺す。どちらか片方だけでも殺すし、時間があるならできる限りの苦痛を与える。大人しくできる?」

俺は全力で頷いた。長谷野はあっさり椎菜を解放する。

「椎菜、痛かった?」

さきほどまでのことがなかったかのように椎菜を心配する。

「ああ、とっても。」

「そ。ご飯買って来たけど、何か食べたいものある?」

目の前にリストアップしたメモを見せる。

「ハンバーグ弁当、あと紅茶。」

「九薬君は?」

「いや、食欲が……。」

「じゃあ同じのでいいか。」

長谷野は立ち上がり、数分後にビニール袋を持ってきた。

袋から取り出すと、割り箸でハンバーグを一口サイズにわり、椎菜の口に放り込む。

「……。」

すごくカオスだ。

椎菜は大人しく食べていた

「はい、九薬君も。」

俺もその箸に差し出されたハンバーグを食べる。

長谷野は俺たちに一口ずつ食べさせながら、自分も食べていた。

無言のまま、夕食は続いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る