別れ
「……。」
朝、目が覚めた。
1人だった。
椎菜もいないし、長谷野もいない。
昨日、長谷野にいきなり監禁された。
今まで優しかったのに、突然豹変した。
もしかしたら、椎菜だけ連れ去られて酷いことされてないか?
だって
「……椎菜!」
俺は慌てていた。
縛られたはずの縄ももうないことにすら気がつかなかった。
「椎菜!椎菜!椎菜!」
屋敷の中を走りまくった。
でも、あの後たくさん話した。
長谷野さんはあくまでも椎菜自体を憎んでいるわけじゃない。
実の両親よりずっと愛情も、未来も考えている気がした。
味方だった。
昨日、長谷野は俺たちを解放するって話していた。
でも、嘘だったら?
俺たちをいきなり監禁して、脅してきたのに約束なんて守るのか?
不安が襲う。
思考が一瞬で矛盾する。
長谷野を信じたい気持ちと疑う気持ち、椎菜がいなくなったこと、
「九薬?」
椎菜が廊下からひょっこりと現れた。
「椎菜……?」
「どうしたんだ?そんなに慌てて。」
「長谷野さんに何かされてない?大丈夫?」
「うん。大丈夫だ、だいじょ……。」
目から涙を流し始めた。
「……ぶじゃない。」
堰を切ったように泣き始めた。
「こんなつもりじゃ、なかった。長谷野さんのこと裏切るつもりじゃなかったんだ。」
一瞬、抱き締めたらいい気がしたがそんな勇気はなかった。
俺は椎菜が落ち着くまでその場でジッと待ち続けた。
行動力も決断力もある椎菜がこんなに泣き虫になるなんて思わなかった。
「椎菜、最初から教えてよ。長谷野さんから大方聞いたんだけど、なんで俺がここにいるのか。目的について教えてくれ。」
「……ああ。私の部屋に行こうか。」
言われるまま部屋に入ると、数日前とは打って変わって荒らされた部屋があった。
「母さんの幸せが知りたかった。私のために生きるんじゃなくて、自分の幸せを知ってほしかった。」
顔が暗くなる。
「だから、飛来さんが母さんを監禁した理由が知りたかった。」
「復讐相手じゃなかったの?」
「いや。根本的に飛来さんが恨みをもった理由がわからない。」
「……知らなかったのか?」
「ああ。絶対に話してくれなかった。」
ため息をつく。
「飛来さんは今までずっと私といてくれた。向き合って話を聞いてくれて、手伝ってくれて。だから、無神経なことしてしまったんだ。」
落ち着いていたはずが、また目が赤くなる。
「ちょっと考えたらわかるはずだった。私がしたことは、飛来さんにとって裏切りだった。」
「……。」
「飛来さんがいなかったら、私は存在しなかった。そんなことができる狂気じみた恨みなんて忘れるわけがない。」
「……。」
「今朝、飛来さんが私だけ声をかけてきたんだ。」
「うん。」
「それで、この部屋に連れてこられた。押し倒されて、首に手をかけられた。死ぬかと思った。」
椎菜の首を見ると、特に跡はなかった。
「『ここで殺したらあの人たちと一緒だから、殺さない。』そう言って去っていたよ。」
口を開こうとして、躊躇っていた。
「……もう、会えない。そんな気がするんだ。」
「……そうか。」
「手加減してくれたんだよな。」
椎菜は立ち上がった。
「真相を知らないと。」
「ああ。」
「帰ろうかーーここにいても何も始まらないんだし。」
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