夏、中盤

長谷野の家から帰って数日、椎菜と連絡を取っていなかった。

今どんな気持ちで何を思ってるんだろうか。

手持ち無沙汰な中、登校日が来た。

「おはよー、九薬。」

卦豆けず。おはよ。」

同じサッカー部のクラスメイトの卦豆が話しかけてきた。

「文化祭の出し物決めのあと、草取りなんてダルいよな。」

「わかる。直射日光が嫌だよな。」

椎菜の席をチラッと見ると、課題をやっていた。

おそらく話しかけないようがいいだろう。

「お前、全然練習来てないじゃん。試合出れなくていいのか?」

「そこまで興味ないからいいよ。」

「ほーん、夏休みは何してたん?」

「知り合いの手伝いをしてたよ。」

とても短い時間だったのに、長谷野さんのことを思い出してしまう。

まるで夢のような気分だ。

「へえ。そういえば、夏休みもうそろそろ終わりじゃん、あと花火大会くらいしかないぜ?」

「そうだな。」

椎菜を誘ったら喜ぶだろうか。

本来の日程なら参加できなかったはずの花火大会は近い。

嬉しいことのはずなのに、辛い。

自分に寄り添ってくれて、味方してくれる頼りになる存在を失った。

数日しかいなかった俺ですらこれなんだから、椎菜はもっと酷いだろう。

「出し物決めまーす。」

学級委員の声で席についた。



それから数時間経った。

日差しの中、草を取る。

「椎菜。」

汗を掻きながら一人で草抜きをしていた。

「ああ、九薬か。」

「……あのあと、どうだ?」

「どうもこうも。飛来さんとは連絡取れないし、いつも通りだよ。」

「もしかしてしばらく暇?」

「ん?まあな。」

「じゃあさ、花火大会一緒に行こう。」

内心ドキドキしながら聞いた

「ああ、行こうか。」

あっさり了承してもらえた。

「……え、いいの?」

「誘っといてなんだよ。いいよ、気分転換したいし。」

力なく笑う。

空元気か。

それでも。

「椎菜と花火見に行けて嬉しい。」

「そうか。」

俺が笑うと、椎菜も笑ってくれた。






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