ココア2

ふと、ベッドを見るとノートやファイルが散らばっていた。

俺はベッドに近づくと、新聞の切り抜きが置いてあった。

「『樋口一家放火事件』?」

ある3人暮らしの家族が燃えたらしい。犯人は捕まっていないが、放火の可能性が高いらしい。

なぜこんなものが置いているかわからずに読んでいると、見覚えのある名前と写真があった。 

大人びた椎菜そっくりの顔をした女性ーー。

「樋口藍蘭は現在行方不明……?」

藍蘭。

椎菜の母親のことだ。

でも、椎菜の母親は俺自身会ったことがある。

放火で行方不明はおかしくないか?

その時、ドアを蹴るような不自然な音がした。俺は内心、ビビりながらもドアに近づく。

「すまん、開けてもらっていいか?」

「ああ、うん!」

俺は慌ててドアを開けると2つマグカップを持った椎菜がいた。

両手が塞がっていたようだった。

「お盆見つからなかったから助かった、ありがとう。」

ココアが2つテーブルに置かれる。

細かい筆使いで書かれた花柄のカップにはレトロさを感じた。

「ずっと昔からありそうなデザインだね、このコップ。」

「ああ、戸棚にあったから適当に使った。この家、だいぶ古いらしいからな。こういうのたくさんあるんだ。」

「ここって、長谷野さんの先祖の持ち物なの?」

「いや、知り合いの家を譲り受けたんだと。」

「ふーん?」

どんなレベルの知り合いなら豪邸までもらえるんだよ。

俺はココアを一口すすった。

「美味しいか?」 

普段飲むココアよりずっとずっと美味しかった。

「めちゃくちゃ美味しいね、これ!!」

「そ、そうか。そこまで、言ってくれるのか。」

「普通のよりもクリーミーでまろやかで俺は好きだよ。」

満更でもないようだった。

「そっか。」

「長谷野さんに教えてもらったんだ、ココアってホイップ溶かすと美味しくなるって。」

「意外。長谷野さん、そういうの得意なんだ。」

いつも出来合いの弁当に、買ってきたお茶ばかりなので料理はからっきしなのかと思っていた。

「実家が喫茶店だったらしいぞ。」

「へえ。」

俺はこのタイミングで、聞いてみることにした。

「……長谷野さんって椎菜の何?」

「何って……、何だよ。うーん。藪から棒に。」

怪訝な顔をしながら、真剣に考えて

「……近所の人?」

「さすがにこの距離は近所とは言わないよ……。」

バスと徒歩で来るまでにどれくらい時間かけたんだと思うんだよ。

「長谷野さん、私にとっては表現が難しいんだよ。」

「そうなのか?前にも言っていたけど……。」

アルバムの件といい、絶対ロクな関係じゃない。

未だにあの写真が信じられない。

『あのさ、椎菜。俺に黙ってること、ない?』

椎名本人にこれが聞けたらどんなにいいか。

俺はモヤモヤした気持ちのまま夜を過ごした。



























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