ココア1
「ん……。」
夜中、月のあかりが眩しくて目が覚めてしまった。
普段住んでいる家では決してありえない。
この明るさは田舎特有だろうか?
長谷野が帰ってくるまで、1日はある。
俺は携帯だけ持って何となく屋敷の中を歩いてみることにした。
廊下は窓から入ってくる月明かり以外に頼りになるものは何もない。
ふと、通知を見ると姉から連絡が来ていた。
『映え!おしゃれににできた!』
白菜と豚肉の上に星やハートの形の大根や人参が並んでいる。
どうやら鍋パーティーをしているらしい。
『美味しそうだね。』
俺は微笑ましいなと思いつつ、返信した。
そもそも椎菜の家のことって俺は無関係じゃないか?
椎菜の母親がどんなに執着心の強い人間だろうと、椎菜の父親がどんなに無関心だろうと、俺には関係ない。
長谷野のことだってそうだ。
昔、長谷野と椎菜の母親には何か関係があったかもしれない。
でも、俺はどうすることもできないし、椎菜が何を考えているかわからない。
「うーん。」
このときの俺はただの考えなしで、椎菜の部屋に向かっていた。
俺は数学の解答だって問題解くより先に見るような人間だ。
答えのない問題を考えたことはほとんどない。
俺にとっては椎菜の話は何だか重たすぎるような気もした。
「椎菜、起きてる?」
返事がなかったらそれで戻るつもりだった。
特段何かしたくて声をかけたわけじゃない。
「ん?」
扉の向こうでドタドタと音がして、椎菜がやってきた。
「どうしたんだ?」
浅葱色のパーカーにショートパンツの彼女に思わずドキッとした。
考えてみると部屋着姿は初めてだ。
「もしかして寝れない?」
「まあ、うん。そんなところ。」
「じゃあ、トランプでもするか?」
「うん。」
椎菜はマジシャンみたいに、見事な手さばきでシャッフルをする。
「椎菜は何が好き?」
「大富豪とか、ババ抜き。あと金魚。」
「キンギョ?」
「ルール知らない?なら、大富豪な。」
椎菜は綺麗に2人分配った。
手札を見ると、ジョーカーが2枚あった。
「……!」
「ジョカー全部そっちいったか。」
「なんでわかったの?」
「いや、これ2人プレイだからな……。」
椎菜に呆れられて恥ずかしくなった。
椎菜とのトランプは意外に楽しくて、気がついたら10連戦してた。
「はい、上がり。」
「まーた、負けた。」
「惜しいところで負けるよな、九薬。」
意地悪そうに笑う。
「椎菜が強いよ。」
「そう?」
「プロみたいにシャッフルするし。」
「何だよ、プロって。」
椎菜はいきなり立ち上がって、
「そうだ。ココア作るけど、飲む?」
「いいの?」
「ついでだよ、気にすんな。」
椎菜は上着を羽織って、スタスタと歩いていった。
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