田舎にある家

「あつー、今日も天気がいいな。」

彼女は眩しそうに太陽を眺めていた。

「そうだね。いかにも夏の天気。」

青空には入道雲が見える。

「九薬……親はバイトのこと何か言わなかったのか?」

「どうせ家にいても勉強しないだろうからそれなら出かけてくれたほうが助かるって。もちろん、椎菜の知り合いってことは話していないから大丈夫。」

椎菜は何を気にしているのかわからないが、両親に自分がバイトをしていることを内緒にしていたいようだった。

友人の家でしばらく泊まるということにしているらしい。

そんなにバイト先のことバレるのはまずいのだろうか?

確かに校則や規則を破ることには抵抗があるようなそぶりは見せるが、その点は自分で納得している気がする。

どちらかといえばバイト先の人のことが気になるのかもしれない。

「バイトって知り合いの家の片付けなんだよね?そんなに広いの?」

「そうだな。どう例えようか。」

少し考えて、思いついたように

「ホラーゲームでよく出てくる洋館みたいな家。」

「洋館みたいな家?」

「ああ。鬼とかマッドサイエンティストとか殺人鬼とか悪霊が住んでそうな家。」

少し想像して妙に納得してしまった。

きっと、そんなに広い家なら掃除も大変だろう。

バスで40分、さらに電車で40分。そして歩いて10分。

見えるのは山と川が続く中で、海外のカントリーハウスを思わせるような屋敷はそこにあった。

「広いな。」

「あの人、お金は沢山あるらしいからな。」

椎菜はスーツケースをゴロゴロと転がしながら足場の悪い道を歩いていた。

玄関まで来ると大きな扉が少し開いていた。それを椎菜は思いっきり力を込めて開けようとする。が、びくともしない。

「うくくぐ!」

「手伝うよ。」

ようやく2人で全力で押して扉を開く。

「手が痛くなるよ、これ。」

「ああ、本当にな。」

「なーにやってるの?」

男性の声がして2人とも振り返える。

「そっちの扉は立て付けが悪いんだけど?裏口から入ればいいのに。」

30代後半から40代前半くらいの細身の男性だった。目鼻顔立ちははっきりしてるおり、どこか優しそうな雰囲気が漂ってくる。

「そうだったな。こっちが電話で話してた同級生の九薬 陶(くぐすり とう)。こっちが私の知り合いのーー。」

「長谷野 飛来(はせの ひら)だよ。よろしくね、」

にこっと笑うと彼はポケットからピンとまっすぐした封筒を差し出す。

「これ、バイト代。」

「え、ああ。ありがとうございます?」

困惑を隠しきれない。

前払い制だったのか?

俺は封筒を受取ると厚みに驚く。

中身を見ていないにも関わらず、厚さだけで大金が入っているのがわかる。

高校生のバイトは大体は数万円という。ましてや知り合いの手伝いなんてその半額もいかないと思ってた。

でも、明らかに沢山入っている。二人分渡してるんじゃないんだろうな?

「もしかして少ない?」

「いえ!そんな、むしろ多いくらいです!それに前払いだって聞いてなくて」

正直にいうと彼は笑ってくれた。

「きっと掃除大変だからね、それにちゃんとお金は払っとかないと。」

「‥…飛来さん、部屋はどうすればいい?」

キャリーケースをガラガラとわざとらしく前後に引きながら催促をする。

「ああ、暑いし疲れたよね?二階の部屋を案内するよ。二つ別々の部屋を開けておいたから。」

彼はそういうとドアを開けて、迎え入れてくれた。

「はい、どうぞ入って。後で冷たいお茶持ってくるよ」

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