第19話 久々の授業

体調も良くなり、ミューズは久しぶりの授業を受ける。


今日の授業は薬草学だ。


「可愛い」

温室で咲いている薬草や花などを見て、ミューズの心は落ち着いていく。


「色々なのがあるですね。この辺りは見たことないです」

マオに促され覗き込むと、白い小さな花があった。


「本当ね。本では見たことがある気がするけど、何だったかしら?」


「ウルクの花だよ、体を冷やしてくれる効果を持つんだ」

ミューズとマオの疑問の言葉に帰ってきたのは穏やかそうな男性の声だ。


二人は同時に振り返る。


「驚かせてしまってごめんね。これはもっと南の方に咲いてるんだけど、ここは凄いね。色んな植物があって楽しい」

ニコニコとしている彼は大きな眼鏡を掛けていた。


兄と似たような雰囲気を感じ、マオは警戒する。


とらえどころのない様子がそっくりだ、こういう人物は腹の中で何を考えているかわからない。


「詳しいのですね、薬草好きなのですか?」

ミューズは普通に返事をしているが、マオは判断し兼ねている。


ただの親切な学友か、それともミューズに近づく不埒者か。


今日の護衛騎士はライカだ。


そのような男女の機微について、細かい見極めはあまり期待できない。


「セシル様は薬学に精通してるですね、さすがです」

とりあえず二人きりの会話にならないようマオも間に入る。


ミューズにその気はなくともあちらにあっては堪らない。


ティタンと違うタイプの男だから、尚更だ。


ミューズが惹かれるとは思わないが、警戒は強めたほうがいい。


「驚きました。僕の名前を覚えててくれたのですね」

セシルは驚いていた。


「偶々です」

マオは同じ学年のみならず、この学校に通う者の顔と名前を覚え、簡単な身辺調査はしている。


問題を起こしたアニスは神官クラスに編入仕立てで、まだ把握しきれていなかった。


「薬学が得意なのですね、凄いです。私、しょっちゅう熱を出してしまう為、ロアロスとマツネの葉を煎じて飲むのですが、もっと効果のあるものなどあるのでしょうか?」

幼い頃から体調を崩すミューズは自身でも薬を煎じる。


王室寮では小さなキッチンもあるため、お菓子作り以外にも薬作りで役立っていた。


「その組み合わせが一般的ですよね。そこにベリロの実も少し加えると解熱効果が高まりますよ」

ミューズはすぐさまメモに取っていた。


「解熱もですが、普段から飲むものとして、ナナカのハーブティもおすすめです。体を温める効果が高いので、女性にいいですよ」


「初めて聞くハーブです。この辺りにもありますか?」


「王都のお店でありますが、あまり馴染みがないので限られた店にしかないのです。部屋にいくつかありますので、今度お裾分けしますね。ミューズさんとマオさんでどうぞ」

二人の名前を知ってるようだった。


「セシル様も僕らの名前を知ってるのですね」


「それはそれは、お二人共有名人ですから。それとティタンさんも」

セシルはクスッと笑った。


「入学当初からあれ程目立つ方々はそうはいません。注目されきってますね。しょっちゅうティタンさんが会いに来るから、より目立ってます」


「そうなのですか?」

ミューズは頬を赤らめている。


色々な事があり、ミューズは溺愛令嬢と呼ばれている。


常にマオと護衛騎士のどちらかがおり、それだけではなく騎士クラスの婚約者の愛し方が、尋常じゃないと噂だ。


ティタンについては筋肉バカとも言われてるが、そもそも騎士クラスにいるもの皆がそうだから、気にしてはいない。


「ティタンに少し遠慮してもらおうかしら」


「無駄です。諦める方がいいですよ」

虫除けと癒やしを兼ねてミューズの側にくるのだ。


多分全力で拒否をするだろう。


「婚約者さんに誤解されないように言うけど、僕は薬草学の話が出来たらなと思って声を掛けたんだ。一年の時はティタンさんがいて無理だったけど、今なら少しは出来るかなって」

話を聞いてるだけのライカの手が剣に伸びている。


疑わしきは罰するつもりだとわかり、マオは手振りだけで落ち着けと合図した。


「ミューズさんは首席で入ったのだし、こうして薬草の知識もある。面白い話が聞けそうかなって思ってたんだ、少しならどうかな?」

伺いを立てるようにこちらを見てくる。


「多少なら……」

ミューズはちらりとマオの方を見る。


「多少ならば、です」

渋々とマオは頷いた。


少しくらいは他者との交流が必要だろう、害するならば斬るし。


調べた限り、セシルはセラフィム国の侯爵家の者だ。


マオや便宜上のティタンよりも高い位にいる。


人となりが良ければスフォリア領を任せられるかもしれないと、マオは思った。


(ティタン様が許すかはわからないですが)

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