第15話 意外な言葉
「ねぇあなた、ティタン様と別れてくれない?」
「ん?」
話をしようと挨拶したら、何故か向こうから切り出された。
何ていっていいかわからず、笑顔が固まる。
「別れるとは?」
「彼の婚約者なんでしょ?相応しくないから、別れて」
こんな風に言われたのは初めてだ。
「彼みたいな逞しくて強い騎士はあたしが支えてあげるわ。あたしは聖女なんだから」
「聖女?」
「そうよ、あたしはシェスタ国での聖女なの。あなたみたいなただの女じゃないんだから」
ふんぞり返っていうアニスを、マオは射殺さんばかりに睨んでいる。
「ティタンは私の婚約者であり、護衛騎士になる人です。別れるなどありえません」
そうミューズが告げるが、はぁーとアニスはため息をつく。
「面倒くさい女ね。ちょっとだけなら待つけど、あんまり遅いと国王にいいつけるわよ」
「何を言いつける事があるですか。こちらだって言いつけるのです、ミューズ様を侮辱するなら容赦しません」
マオが我慢出来ず、口をはさむ。
「あら、言いつけてもらっていいわよ。あたしが有望なのは誰が見てもわかるもの」
どこからその自信が出てくるのか不思議だ。
「あなた彼に何かしてあげられるの?」
「ティタンに?」
しばし考えてみる。
最近だと抱っこされたり膝枕してあげたり、よしよししたり、ミューズが何かをしてあげると感激して子どものような笑顔を見せてくれる。
初めて刺繍したハンカチもぼろぼろになるまで持っている。
新しいのをあげても大事に取っているとエリックに教えてもらった。
さすがにそれは言うのが憚られる。
「刺繍入りのハンカチやお菓子を作ってあげたり」
「子どもね、おままごとかしら」
あっさりとはねのけられ、嘲られる。
「今は彼、あなたに夢中かもしれないけど、あたしが言い寄れば喜んであたしを選ぶわ。素直に婚約解消しなかったことを後悔なさい」
高笑いで去っていくアニス。
「凄い自信満々ね」
「ティタン様がアレになびくとは思えないですよ」
「きゃー!」
甲高い女性の声がし、ティタンとルドは駆けつける。
「助けて下さい!」
可愛らしい女生徒が、男に腕を掴まれてた。
「ルド!」
ルドが剣に手をかけたのを見て、男は急いで逃げ出した。
追おうとしたルドを制し、ティタンは女生徒に駆け寄った。
一定の距離を保って。
「大丈夫か?」
「怖かったです〜」
泣きながらティタンに抱きつこうとした女生徒は、無様にはじき返された。
「痛っ!」
瞬時にルドが女生徒を床に押さえつけた。
「何するのよ!」
「俺が張った防護壁が発動した。ティタン様に危害を加えようとしたとみなす」
ぎりぎりと動けないように押さえつけられ、女生徒はティタンに助けを求める。
「助けてティタン様!」
「ミューズに聞いてはいたが、君がアニスか」
苦笑いをし、距離をとった。
「先程の男は君が雇った者だろ?学園内に不審者などいたらすぐわかるはずだ。抱きつこうとしてたのは、参ったな」
仮に抱きつかれていたらミューズが落ち込んでしまっただろう。
咄嗟にルドが障壁を張ってくれて助かった。
「護衛対象から離れる際は防護壁を張ると流れ弾などの危険が減ります。ご参考にどうぞ」
「ミューズから離れる時はそうする」
夜会などでも便利そうだ。
「捕えたのはいいですが、どうしますか?」
ルドの抑え込みから必死で抜け出そうともがくアニスに、ティタンは問いかけていく。
「俺は婚約者がいる男だ。解消する予定もない」
「あなたに相応しいのはあたしだわ!だってあたし聖女の力をもってるもの」
「聖女の力はわからないが、俺には必要ない。余所をあたってほしい」
「あたしはあなたがいいの!その強くて逞しいところが素敵。あたしならあなたを癒せるわ」
「癒やしならミューズがしてくれるからいらない。俺が鍛えてるのはミューズを守るためで、君のためじゃない」
「騙されてるだけよ! この前笑顔であたしに手を振ってくれたじゃない」
「あれはミューズにだ。君がいたことすら知らない」
「言わされているのね……あたしが助けてあげるから素直になって!」
これは人との会話なのだろうか。
言葉は通じても話が通じない。
「そろそろ誰か来そうですね」
ルドの言葉通り、人の気配が強くなってきた。
「もう俺に構わないでくれ。君を選ぶことはない」
行くぞ、とティタンとルドはその場を去る。
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