第16話 容疑と冤罪

「アニス様の証言は本当ですか? ミューズ様。どうなのでしょう?」

教師の一人にそう問われる。


シクシクと泣くアニスとそれを支える取り巻き。


ティタンと会う前にこちらの応接室に呼び出されたミューズとマオ。


護衛騎士のライカは許可を得て退室していたが、アニス達も止めなかったのでそのままどこかへと行った。


そしてアニスのまさかの言葉に困惑している教師陣。


(こういう人って必ず取り巻きいるよね。どうやって集めてるんだろう)

ミューズはため息一つ吐き、先程のアニスの言葉を否定する。


「雇った男性にアニス様を襲わせようとしたとのことですが、私は全く身に覚えがありません。目撃者はいないのですか?」


「直接の目撃者はティタン様とルド様です。二人はあたしを助けてくれたのです」


「?!」

ミューズは驚いてしまった。


二人が自分と会う前にアニスと会ってたことも驚いたが、会う前にこちらに呼び出された事も、そういうことなのかとわかった。


余計な話をされたくなかったのだろう。


「腕を捕まれ、助けを呼んだら颯爽と現れて助けてくれたわ。ティタン様は倒れたあたしを抱き起こしてくれて」

うっとりというアニスにミューズは頭が痛くなってきた。


「すみません、気分が悪くなってきましたので椅子をお借りしますね」

よろよろと座ると深呼吸をする。 


(なんとたちの悪い人達だろう)

ミューズの婚約者がティタンだと知っているはずだし、ティタンが婚約者以外の女性にそんな事をするはずがない。


知っててそんな風に言えるのが信じられない。


「ティタン達は呼んでいるのですか?」

教師に問うてみる。


「今はまずアニス様とミューズ様に事実確認をしようと思いまして。もう少ししたらこちらに二人を呼ぶ予定です」


「早く認めなさいよ、往生際が悪い!」

取り巻きの一人に怒鳴られ、耳がキーンとなる。


マオは威嚇するように睨みつけた。


「ミューズ様はそんな事しません。そちらこそ虚偽の話をするのは止めるです」


「なんですって!」

バチバチと女同士の争いに火花が散ってしまった。







「ミューズ、無事か?」

ティタンは部屋に入るなり形振り構わずミューズに抱きつく。


話は拗れ、アニスもミューズもティタンを呼んでほしいと言った。


本来ならこんなごちゃごちゃになるような事はしないのだが、二人の剣幕で入れてしまったのだ。


「疲れただろう?顔色も悪い。すぐ部屋に戻って休もう」

会って早々にティタンは過保護っぷりを見せつける。


「お待ちください! まだ問題が解決していません。ティタン様のお話を聞かせてください」

抱きかかえて部屋に連れ帰ろうとするティタンを宥め、教師陣が慌てて話を聞こうとする。


「その女が嘘をついているだけだ。嘘というか自作自演だな」

話は終わりだと早めに切り上げたがっている。


「余り丈夫ではないミューズが心配なので部屋に帰りたい。俺はたまたま悲鳴が聞こえ、行ったらそいつがいた。男に腕を掴まれていたが、ルドが剣を抜こうとしたら逃げていった。それだけだ」


「その男こそミューズが仕組んだ人よ! あたしとても怖かったわ」

涙を見せ、ティタンに近づこうとするものの、ルドが制するように前に出た。


「ティタン様に近づいてはなりません」

ルドは無表情でそう言うと、マオに目をうつす。


「どのような話し合いになりましたか?」


「アニス様が言うには、襲ってきた男はミューズ様がけしかけたそうですよ。そしてティタン様がアニス様を抱き起こし助けたと」


「やめてくれ、鳥肌が立つ」

嫌悪の表情を見せるも、アニスは尚も縋ろうとする。


「そんな、ティタン様忘れてしまわれたのですか? あたしとあなたの仲なのに」


「誤解を招く言い方ばかりだな。そもそも婚約者のいる俺が、未婚の者に触れる事はない。そしてミューズ以外愛さないとそう言ってるだろうが」

何度も同じ話に戻る。



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