第10話 気の合う者と合わない者

そしてもう一人、他のものよりはずば抜けている者を見つけた。


「すごい体力だな」


「ありがとう」

目線が合い、自然と会話が始まる。


「ティタンだったな、俺はキール。いずれは騎士になりたいと思っている」

ここでは貴族性を名乗ることはあまりしない。


従者を連れたりなど若干の特別な事はあるが、基本差別をなくそうと取り計らわれている。


表向きはそうだが、調べ上げ、侮蔑したり、腰巾着になるものも多い。


「俺も将来は騎士になりたいと考えていた。いずれ辺境伯に仕えたいなと思って」


「ほぅ?」

仕えるどころかその者になる予定なのだが、そうなると身分がばれてしまう。


「魔物が多い場所だな。魔物退治がしたいのか?」

人里離れたところが多く、辺境地では魔獣が出やすい。


その点で対人スキルより対魔獣相手の多体との戦いがメインになる。


「そういうわけではないが、そのスキルが必要になるな。なので武器の相性も探りたい。一対一と多人数相手では戦略も異なるし、ここで色々試したいと思う」


「そうなると来年は騎士コースになるのか。俺もそこを目指している。これから色々と話したいものだ」

どうやらティタンと話が合うようだ。


「そうだな、強くなるためどんな鍛え方してるかも知りたい。キールには俊敏さがあるし俺とは違う方法なのだろう? 訓練でも一際目を引いた」


「ティタンこそ凄い力だ。腕だけではなく、下半身も強いな。踏ん張りがきくわけだ」

話の合う相手が出来、とても楽しそうな二人だった。


「良かったですね、友達出来たみたいです」

ベンチから眺める二人は楽しそうにするティタンを見れて嬉しい。


キール=ガードナー伯爵令息。


栗色の髪に赤い瞳をしている。


ティタンよりは細身だが、鍛えているのはありありと分かる。


切れ長の目は鋭く冷たい印象を受けるが、今はティタンとのお喋りで楽しそうに細められていた。


いい鍛錬相手ができて何よりだ。


「ねぇ、あなた。本当は仮病じゃないかしら?」

ティタンがキールと話しているのを見て、ミラが話しかけに来た。


ミューズはうんざりする。


暇があればわざわざ嫌味を言いに来るのか。


しかも今回は周りと離れている。どんな事を言われるのか。


すっとマオが手を途中まで上げ、下ろす。


取り巻き達がわざわざ見えないようマオの前に立ったからだ。


「毎回毎回、少し大変だと思えば休むのね。学校に何しに来ているの?」

あちらから見たら、ただおしゃべりをしているように見えるだろう。


現にミラたちは笑っている。


「従者や護衛まで連れてきて、あなたそんなに偉い人なのかしら? それにしてもパーティでも見なかったわよ」

王太子妃の妹ですとは言えない。


「わたしの父は公爵なのよ。父の名は言えないけれどとても偉い人なの。だから私も護衛騎士を連れているわ」

少しだけ距離があるが、こちらを睨むように見ている男性がいる。


学生ではなさそうだ。


「あなたの護衛、まだ学生でしょ。どうせ子爵か男爵か、とにかくまだ子ども。形だけの騎士で、あなた大事にされてはいないようね」

オホホと笑い、マオにも目をやる。


「従者も、連れて歩くなら見目も重要になるわ。黒髪黒目なんて平民もいいところね、もう少しマシな子を連れ歩いたらどうかしら」

マオはちらりと目線を反らすと軽く俯き、顔を少し上げて睨みつける。


「何よ、その目。お父様に言いつけるわよ」


「そんなにお父様は偉い人物なのか。しかし娘がこれではかわいそうだな」


「??!!」

背後から突如聞こえた声に驚き振り返る。


ティタンが口元に笑みを浮かべ、立っていた。


急いでミラの護衛騎士が走ってきて、間に立ちふさがる。


「何よ、この無礼者! 人の話を盗み聞きして!」

振り向けば皆がこちらを見ている。


驚きと蔑みの目だ。


「これだから田舎者は。ご覧なさい、非常識なお前に呆れているわ」


「呆れているのはお前にだ。全て筒抜けだったぞ」

先程マオが、少し手をあげたのはティタンを呼ぼうと思ったのではない。


風魔法を使い、ミラの声をあちらにしらせる為だ。


軽く俯いたのもティタンへ出したgoサインである。


これ以上ミューズの心労が溜まっては大変と判断した。






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