第3話 対立
「なんと…」
嫡子同士だし、エリックはどうしても婿に行けない理由がある。
そうなれば必然的にレナンに来てもらうようになるが。
「彼女はとても聡明で優しい。時には柳のように悪意を躱す術も持っています。跡継ぎとしての教養を持っているので、俺の妻になってからの新たな教育もさして問題がないと思われます」
学校での数ヶ月の様子を見て、レナンはやはり自分に相応しいと考えていた。
「父上も少なからずそう思っていたと思います。ディエス殿への信頼とそのご息女達なら、安心と安らぎがあると考えていたのでしょう。ここ数年の夏の避暑地にここを選ばれてるのはそのことが大きいのでは?」
話す機会が増えれば、相手を知る機会も得やすい。
相性が良ければ早めの婚約も考慮出来る。
「俺とティタンをご息女にあわせた理由は、信頼なる部下との絆をより深くしたいと考えだったのでは? 気心のしれた仲であれば、不名誉な婚約破棄が起こるリスクも少ないですし」
悪い話ではないはずだ。
少なくともこちらには。
「ミューズ嬢もレナンも、我々に好意を抱いているはずです」
無意識的だがうんと甘やかし、うんと慈しんできた。
今更他の者に渡す気はさらさらない。
「ただ、大きな問題がある」
嫌な予感の正体だ。
「王都のスフォリア領をどうするかだ」
このまま求婚してはスフォリア領を治める者がいなくなってしまう。
どちらかが婚姻を諦める、もしくは両方ダメになる可能性も高い。
仲の良い姉妹だ、エリックとティタンどちらかを優先したりはしないはずだ。
「リオンを養子にしてもらえばどうでしょう?」
ティタンの提案にエリックは眉をひそめる。
「それも考えた。しかしそうなるとリオンの意思を尊重していない。リオンはまだ11歳だ、決断させる年じゃないだろう」
アルフレッドは言葉を続ける。
「そしてこれはこちらが押しつけるものではない、ディエスが決めるものだ。今まで可愛がってきたご息女二人を嫁ぎに出し、こちらの息子を養子に出したのでは乗っ取りと感じられるかもしれない」
この件についての権限は向こうなのだ。
「たとえば二人がエリックとティタンを好いているとして、嫁ぎに出せばスフォリア領の次なる後継者探しに尽力しなくてはならない。王都に近い領だから、信頼も出来、教養もあるものだ。そしてディエス達が養子にしてもいいと信頼出来る者をな」
リオンを養子にしても不都合が出てしまう。
関係が密過ぎるし、強引に進めては周りの反発も出やすい。
アルフレッドは悩みつつも二人の息子を見た。
エリックは金髪翠眼をしており、妻に似たきれいな顔立ちの長子だ。
学校でも婚約者候補に振り回され大変と聞く。
頭もキレ、後継者にふさわしいが、拘りが強く、婚約者探しに難航している。
出来ればエリックが望んだ者を妻に据え、たくさんの世継ぎを残してもらいたいのが本音だ。
レナン嬢も美人だし。
次男のティタンはやや政治には不向きなものの、勘が鋭く腕っぷしもいい。
藤色の髪と黄緑色の目をしており、顔が自分に似たため些か不器量なところがあるからか、令嬢からの人気は低いようだ。
しかし、愛嬌があり無骨ながら真っ直ぐなところは同性からは人気がある。
ミューズと一緒になればこの地を仲良く治めてくれそうだ。
ミューズ嬢可愛いし。
「近々ディエスと話し合う。二人ともそれまで迂闊な事をするなよ」
心配そうな二人をなだめ、アルフレッドは可愛い息子達の幸せを願った。
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