第6話 家族会議
「……みなさん怒ってます?」
ミューズの戸惑う声に、ティタンは苦笑した。
あれから数日。
今日はアルフレッドの別宅にて会談が開かれる。
ティタンの両親ーウィズフォード夫妻と三兄弟、そしてミューズの両親であるスフォリア夫妻と姉妹。
計九人でウィズフォード家の食卓にいるのだ。
メイドや、従者であるニコラとその妹マオもいる。
空気が少しぴりっとしている。
皆静かだ。
耐えかねたミューズが口を開いたのだが、まだ主旨が発表されていない。
ミューズの声にアルフレッドが反応した。
「怒ってなどいないぞ。むしろいい話だ」
ニコニコと笑顔を作り、そう話し始める。
「此度はエリックとレナン、そしてティタンとミューズの婚約を執り行う」
「えっ?」
ミューズはティタンを見るがティタンも驚いた顔でこちらを見ていた。
「いや、話が落ち着くまで大変だった。この頑固者がなかなか首を傾げる縦にふらなくてな」
そういってディエスを指差すが、不機嫌のまま睨み返す。
「大事な娘がそちらに二人も行くのだ。そう簡単に首を振れるわけなかろう」
今もこめかみがひくつきながら、そう応える。
しゅんとするミューズに母であるリリュシーヌがそっと髪を撫でる。
「大丈夫よ、お父様は今は拗ねてるだけなの。子どもが幸せになる事こそが親である私達の喜びなのだから、あなたは構わずティタン様と共になりなさい。ティタン様ならあなたを幸せにしてくれるもの、安心して嫁がせられるわ」
そしてレナンにも向き直り、
「あなたもよ、レナン。幸せになってね、嫡子として受けた教育はエリック様のところでも役立つはずだわ。愛が重いのは少々気になるところだけど、王妃になってもきっと支え続けてくれるはずよ」
「リリュシーヌ様、お任せください。俺はレナンを幸せにし、必ず支えます。たくさんの愛を育み世継ぎもたくさん生んでもらいたいと思います」
「んんんっ!」「エリック様?!」
咽るディエスと叫ぶレナン。
エリックの愛情はとても重く、ねちっこい。
「あの、王妃って?」
おずおずと手を上げるミューズにティタンの母ーアナスタシアは優しく微笑む。
「私達はこの国の国王夫妻、そして3人の子どもは王太子なのですよ」
「えーーー?!」
初めて聞く話に思わず叫んでしまった。
今まで家名を聞かなかったのはそういう理由だったのか。
「第一王子であるエリックに嫁げば必ず王太子妃教育を受けることになる。レナンは今後長期休暇はこちらに泊まるようになります」
寂しくさせてしまうけどごめんなさい、とアナスタシアは申し訳無さそうだ。
「俺達は無用な争いを避けるためお忍びでここに訪れている。暑い王都と違い、ここは素晴らしく自然が溢れている。都会の喧騒を離れ静養していたのだ」
ここには宰相殿もおるしな、とちらりとディエスを見る。
「お父様が宰相……」
重臣と聞いていたが、思いの外重要な役職ではないか。
「学校に上がる際には話そうと思っていたの。レナンにもその時話したし。余計な事を話すとのんびり出来ないと思って、わざと話さなかったの」
リリュシーヌも黙っていたことに引け目があるようだ。
「ティタンが王子……」
「すまない、王子っぽくないよな」
「ん〜どっちかというと騎士かな」
「ミューズを守る騎士なら喜んでなるよ」
頬を赤らめながらこくりとミューズが頷く。
こんな頼もしい騎士なんて嬉しい。
「婚約の話は嬉しいです。今すぐ誓約書にサインしたいところですが、それでスフォリア領はどうする事にしたのです?誰が継ぐことに?」
「養子を取ることにしたが、まだ思案中だ。条件が厳しいからな」
ディエスは頭を抱える。
スフォリア公爵に養子に来てもいい者の条件として、男女問わずしかし貴族籍の者。
ある程度王都の知識があり、教養があるもの。
そして裏切らないもの。
「さすがにリオンは無理だし」
いくら聡明であってもまだ11歳。
そして、これ以上王家とスフォリア家の繋がりを増やすののは周りの反発を生むだけだ。
これだけスフォリア家との懇意が激しいので、出来れば違う貴族が望ましい。
「そうですね、僕にはまだわかりませんが……」
困ったように俯いている。
「ですが、きれいな姉様が出来るのは嬉しいです。レナン姉様、ミューズ姉様」
あまりの可愛さに二人がすりすりするのを大人気ない男たちが睨みつけていた。
「あと、ティタンにはウィズフォードの家名ではなくパルシファル辺境伯の性を名乗ってもらいたい」
アルフレッドはそう言った。
「名ばかりではあるし、気づくものは気づくが、ティタンは社交界にあまり出ておらぬ。さすがに王子二人が一気にスフォリア家の娘を娶ったのであれば癒着の懸念を皆にもたれてしまう。まぁ偽りではないが、いたずらに敵を増やすのもよくないのでな」
「いずれは本当に名乗らせるつもりなのだが、まだ手続き等が済んでおらぬ。また仮にも第二王子なので、王位継承権がある。もしも知られてティタンを担ぎ上げようとする輩が出たら面倒だ。エリックが王になるまではその性を名乗ってもらいたい」
その後は偽りではなく、爵位を授けるという話だ。
まだまだティタンが未熟なのもあり、成長するまではという事である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます