溺愛令嬢の学生生活はとことん甘やかされてます。

第25話 穏やかなのは少しだけ

普通の日常生活を送るのも楽ではない、そう痛感する。

オーランド、あの男もただでは起きないものだ。

手下を使い、ミューズの悪評を流し始めたのだ、これはさすがに堪らない。

「どういうつもりだ、あの男」

ティタンは眉間に皺を寄せ、怒りをあらわにして振り上げた拳は、行き場もなく下ろされる。

うっかりこの前は机にあたり破壊してしまって、マオに怒られた。

さすがに今してしまっては悪評に拍車がかかってしまう。

「様々な男を誑かした悪女だと？　そんな事あり得るわけがない」

婚約者であるティタンだけではなく、オーランド、そしてセシルまでも誑かし、尚且つ護衛騎士の男性も侍らせていると言われている。

そして関わったことのない男性の名まで上げられ、体調不良と偽って医務室へと誘いこんでいるとまで言われてしまっているのだ。

「穏やかな学校生活を送らせてあげたいのに」

ティタンが王族であるというのはいまだに知るものは少ない。

だがこのままでいいのかと、疑問がわいてきた。

「言えば、少しは落ち着くんじゃないか？　溺愛令嬢が何故こうまで大事にされているのか、その理由をもっと知らしめればいいのでは？」

姉が王太子妃だからだけではない、ミューズの夫となる自分も王族だからこそ、特別大事にされているのだ。

「何もしないよりはいいでしょうし、ここまで拗れたのならば身分関係なく平等に過ごすは難しいので、俺もそれには賛成です」

相談を受けたルドも同意する。

「ただこのままあの男のいいようにはしたくないし、唯々諾々と従ったもの達を許すつもりはありませんので。もう少々お待ちください。今俺達で総動員して関係者を洗い出しております、全員極刑に処します」

ルドが怒りのオーラを放ちながら、言い切った。

「それはありがたい」

「仕える主が困っているのですから、当然の行動です」

いつもは穏やかな口調のルドが本日は不機嫌を隠そうともしない。

「穏便に済ませようとしたエリック様の行動を無碍にし、更にこのように主の命ともいえるミューズ様を貶める噂を流すとは、万死に値します。今すぐセラフィムに乗り込んで切り捨てたい。許可を得られれば向かいますが」

「さすがにそんな許可は出せんな」

人間、感情をむき出しにする者の側にいると自然と冷静になれるものだ。

いつもは諫める役のルドが怒ったのを見ると、尚更気持ちが落ち着いていく。

「俺は嘘や裏切りは嫌いです、特にこのように人を傷つけるものは。何故心優しいミューズ様がこのような事で、傷つかねばならないのか……許せません！」

「落ち着こう、ルド。お前の気持ちはありがたいが、その形相で人前には出るな」

完全に目が据わっていたので、ティタンが宥めに入る。

「失礼しました、つい気持ちが押さえきれなくなりまして」

ルドの父親は冤罪を掛けられたことがあり、自身もそして家族も相当苦しめられた。

それ故に嘘、そして悪意ある噂を激しく嫌っている。

「だが、皆がそのように動いてくれているというのは本当に有難い。感謝している」

「いいのです、俺達が好きでしている事ですから。ですからしばしお待ちを、必ずティタン様の耳に朗報をお持ちいたしますので」

深く深く頭を下げ、ルドはそう宣言する。

幼い頃から支え合ってきたこの二人を応援したい、家臣一同そんな想いだ。