第22話 困ったこと
エリックは本当に送られてきた抗議書にため息をついた。
ティタンとマオから詳細は聞き、秘術で撮ったその時の映像も見ている。
すぐさまセラフィムに証拠の映像と共に抗議書を送ったのだが、入れ違いでこちらに送られてきたものは、出鱈目な内容であった。
(気持ちはわからなくもない。まさか自国の王子が、あんな不遜な態度を他国で取ってるとは思わないよな)
セラフィムから来た抗議書の内容は、王子の言い分をまるっと信じた内容だった。
第三王子オーランドに対し、従者のマオが傷害行為を行なった事。
スフォリア公爵令嬢に無理矢理言い寄るティタンを諌めようとしたら、暴言を吐かれたこと。
そして護衛騎士のライカは意味もなく抜剣をし、周囲を黙らせようとしたことなど。
言いがかりも甚だしいものだった。
「マオは護衛も兼ねてるから、ただの従者ではないのだが。不埒な手を出して殺されなかっただけ感謝してもらいたい」
手紙を折りたたみ、エリックはため息をつく。
「次から次へと厄介事を招くとは、仕方ない者達だ」
エリックは少しだけ笑い、手紙を侍女に渡す。
「国王陛下に渡してきてくれ。それと伝言だ、不愉快極まりないので好きに動かせてもらうと」
エリックは出かける準備をし、従者のニコラを伴って歩く。
「折角だ、レナンも誘いセラフィム観光と行くか」
そう考えれば少しだけイライラが収まる。
エリックはすぐにレナンの元へと向かった。
「納得いかないです、どうして僕たちが別室追いやられるのですか!」
マオは興奮気味にそう言った。
学校側からはオーランドとの接近禁止をお願いされており、マオとライカは教室に行けない。
身分の差はないとは謳うが、外交問題に発展してはいけないと別室にて授業を受けさせられている。
もちろんミューズ一人で教室に行くことはないので一緒に別室にいるが、オーランドのアピールが強すぎる。
「そんな者達と一緒におらず、こちらに来い」
命令口調で言うオーランドにうんざりしていた。
ミューズはオーランドを嫌っており、そんな事を聞く義理もない。
無視を決め込んでいるのに、どうして寄ってくるのか。
「こんなに強引な人は初めてよ。どうしたらいいかしら……」
(ティタン様も相当だと思いますが……)
という言葉は二人とも何とか飲み込んだ。
昼休みになり、コンコンとドアを叩く音がする。
「俺だ、開けてほしい……と思ったが、しばし待て」
聞こえたのはティタンの声だが、様子がおかしい。
「ミューズ様は奥に居るですよ」
ドアから離れさせ、マオが外の様子に耳を傾ける。
ティタンの声と、オーランドの声だ。
マオの拡声魔法で二人の声を拾っていく。
「いい加減諦めるんだな、ミューズはお前の妻にはならない。彼女はアドガルムの第二王子である、俺との婚姻が決まっているんだ。何より愛し合っている、この婚約はけして覆らない」
「ふん、そんな戯言聞くものか。それにお前みたいな粗暴な者が第二王子だなどと信じられるか。王太子であるエリック殿下ならお会いしたことがあるが、お前とはまるで容姿が違うし、気品も感じられない。王族だというのなら、皆も知っているはずなのに、お前の事を皆知らないという。それはお前が出鱈目を言っているという事だ」
「その目は節穴で、耳は飾りか? 折角セシル殿が忠言してくれた全てを無駄にしおって。民の言葉に耳を傾けるべき王族が、身近な家臣の話も聞かないとはお前こそ本当に王族か? これ以上恥を晒す前にセラフィムへ帰るといい」
「おーティタン様が言い返してるです」
感心するマオに、ライカは口をへの字に曲げる。
「お前、ティタン様を何だと思っているんだ」
尊敬する主に対し、度々マオはこのような態度を取る。
その度にライカは諫めるが、マオはどこ吹く風だ。
「脳筋ですぐ腕力に頼る主だと思っているです」
否定しづらいところを突いてくるから、ライカとしても面白くはない。
そんな二人のやり取りよりも、ミューズは当然ティタンを心配していた。
「どうしましょ、ティタンに迷惑をかけてしまって」
それにこのままでは、本当に手を出しかねない。
もしもティタンが手を出してしまったら、賠償金とかになるのだろうか。
いやティタンの力だ、最悪命を落としてしまうかも。
そうなれば外交問題どころか戦に発展しかねない。
「そうなったら、どうしよう」
ミューズは頭を抱え、蹲ってしまう。
無力な自分が歯がゆい。
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