第20話 男の学友

男の話が出て、ティタンはムスッとしている。


「セシル=ボルドーか。怪しい男じゃないといいな。王家の影にも伝え、探って貰おう」


「僕も調べましたが、再調査は必要ですね。ぜひお願いしたいです」

王家の影は諜報部隊だ。


万が一まで考えなきゃいけない。


「人脈作りは大事だが、男……か」

ミューズをしっかり抱き締める。


やはり不安だ。


自分とはタイプの違う優しそうな男だと言うし、薬学などの話も出来るらしい。


「俺もそちらに編入するか」

寂しさからそう言うと、ミューズはぶんぶんと首を振る。


「ティタンは騎士で居ていいのよ、これから先あちらに行ったら必要な技術だもの。それに剣を振るうあなたはとても格好いいわ」

逞しい腕にそっと体を寄せる。


「マオも皆も居るところで話すだけだから、心配しないで大丈夫よ。私には貴方だけだから」


「うん……」






ティタンの心配を他所に、セシルはただ勉強の話を熱心にしてくるくらいだった。


「良かったらこれ、ティタンさんに。疲れた筋肉をほぐしてくれる薬効があるよ」

と渡してきてくれた。


ミューズの手前だし、マオは受け取るがティタンには渡さず廃棄する。


前のハーブティーなどもきちんと店を探し出し、セシルが言う通りの効果があるらしいが、いまだ信用は出来なかった。


「……何かが引っかかるのです」

ルドがセシルの行動を見てて、マオにそう告げた。


傍目で見てても別に不審な行動はないし、ミューズに手を出すわけでもない。


勉強の話しかしていないし、親切心でハーブや薬草をくれる。


でもどこか、何か、違和感がある。







「ティタンさんに会えて光栄です!」

今回セシルはミューズ達と共に見学に来た。


何とも言えないルドとライカの表情、マオも真意が図りきれず戸惑っている。


「セシル殿、話はミューズから聞いている。ミューズと色々な勉強の話をしてくれてるそうだな、ありがとう」

ティタンはニコッと口角をあげる笑みを浮かべた。


セシルもニコニコしている。


「こちらこそミューズさんと貴重な話が出来て嬉しいです。薬草について本当に知識が豊富なんですよ」


「それは、セシル様の方が凄いですわ。私なんてまだまだで……」


「ミューズは勉強熱心だからな、いつも頑張りすぎるくらい頑張っている」

ティタンは訓練直後の汗を気にしてか、ミューズの肩を抱くに留まった。


「ティタンさんは本当にミューズさんが好きなんだね」

ミューズの言葉を遮ってまで褒める様子にセシルはニコニコするだけだ。


「ミューズさんの魅力をぜひ教えてもらっていいかな?」


「まず優しいし、可愛い。そして勉強熱心だ」

スパッと簡潔に言うとそういう事だと話す。


「細かく言うことはしないが、一緒に居て話をしているあなたにはわかっているのだろ? 渡しはしないが」


「僕には勿体ないからそんな関係にはなりませんが、ミューズさんがとても素敵な女性だとはわかってます」

あははと笑うセシルは何かを含んでるようには見えない。


ティタンもにこやかに応対している。


「この前は筋肉の凝りをほぐす薬を頂いたな、ありがとう。セシル殿は将来薬師になるのか?」


「受け取ってもらえて良かったです。言われる通り将来薬師を目指そうと思い、修業中なんです。魔法と組み合わせれば効果が高くなりますからね、学校でいっぱい学びたいです」


「いい志しだと思うぞ。薬草の栽培はいずれ領地にてしようと思っている。ミューズが色々な知識を得てくれるのは有り難いな」


「婚約者さんですもんね」

ちらりとセシルはミューズを見た。


「たくましい婚約者さんでいいですね。僕ちょっと殴られるかと思ってましたが、優しい人で良かったです。ミューズさんはティタンさんのどこが好きですか?」

唐突にそう話を振られ、頬を染める。


「えっと、どこが好きって……全部?」


「! 俺もだ」

危うく抱き潰しそうになるのを理性で抑えた。


「優しくて頼りになります、何より私を想ってくれてるのが嬉しいわ」


「お互いを想い合う、いいですね。素敵です」

純粋に応援してくれているようだ。


「皆も噂に振り回されず、きちんと、見てくれればいいのに……すごくお似合いですよ、僕は応援しています」

溺愛令嬢と呼ばれているミューズは、ティタンに一方的に言い寄られているとの見方もある。


辺境伯令息という立ち場なのに、公爵令嬢であるミューズへの口の利き方や、ミューズの感情を振り回す立ち回りに、野蛮だなどど言われていた。


ミューズは嫌がったりしていないが、恥ずかしがる態度がそう見えてしまうようだ。

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