第28話 協力者

「ティタンが隣にいるのだから、君が噂の溺愛令嬢か」

ミューズは知らないがティタンを呼び捨てにするのだから、地位のあるものなのだろう。


大柄な男は頭をさげた。


「俺はシェスタ国の王太子、グウィエン=ドゥ=マルシェだ。国の者が迷惑をかけたという話を伺っている。その節は失礼した」


「いえ、そんな。あなたのせいではありませんので、どうかお顔を上げてください」

王族が頭を下げるなんてそうそうない。


しかもグウィエンは全く悪くない話だ、こんなことされてはこちらが恐縮してしまう。


「話に聞いていたが優しい子だな。どうだ、シェスタに来ないか?」


「えっと」

唐突な誘いに、ティタンに腕を引かれる。


「グウィエン様、戯れは程々に。殴りますよ」

噛みつきそうな表情で言うティタンにグウィエンは大声で笑う。


「それは止めて欲しいな。お前にやられたら頬が腫れるだけでは済まなそうだ」

こそっとマオがミューズに耳打ちする。


「グウィエン様の挨拶のようなものです。女性と見れば声を掛ける人なので、くれぐれも二人きりで話しをしては駄目ですよ」


「そうなのね」

マオの忠告を胸に刻む。


「グウィエンの非礼は俺が詫びる。俺はパルス国国王のルアネド=バンフェルグだ、これからよろしく頼むよ」


「国王様?!」

まさかのパルス国王とは。


若いし、そしてまさかこのような場で会えるとは思ってなかった。


思わずティタンの方を振り向く。


「あぁ、そう言えばそうだった。どちらかというと兄の友人としての認識が強くてな。意識していなかった」

思いのほかすごい人たちに声を掛けられ、ミューズは驚いてしまう。


(これ、絶対後で熱が出るわ)

動悸が激しいのがわかる。


「アドガルム国、スフォリア公爵の娘、ミューズと申します。この度はお二方にお目にかかれて光栄です」

スカートをつまみ、片足を下げ、礼をする。


「かしこまることはない、気軽に接していいからな」

そう言い放つはエリックだ。


「それ俺が言いたかった。ミューズ嬢、いっぱい話をしような」

グウィエンがにこやかな笑顔を向けてくれる。


「エリックの義妹だし、ティタン様の婚約者と伺ってます。困ったことがあれば俺も力を貸しますので、遠慮なく相談してください」

二人の王族の気遣いにミューズはもはや何と返していいかわからない。


今日も体が保たないかもなと少し眩暈がしてきた。








和やかな雰囲気から一転して、真面目な雰囲気となった。


『二人に頼みたいことがある』

口を開いたのはエリックだ。


話す言葉はアドガルムの公用語ではない。


『手紙も送ったが、目は通したか?』

問われグウィエンは首を傾げた。


『そんなのあったか? セト』


『ありましたし見せましたよ! 何で忘れるんですか!』

グウィエンの従者のセトが、アドガルムの印が入った手紙をこそっと出して渡す。


『セラフィムのお坊ちゃんを懲らしめる話だろ。聞いている』

ルアネドの従者、シュゼットも手紙を出してみせる。


何の話かと戸惑うミューズにティタンが教えてくれた。


「オーランドにわからせるために、二人は協力をしてくれるそうだ」


「そうなのですか!」

自分の為にこのような人たちまで巻き込むとは。


言葉がわからないミューズの為に、レナンが三人の話を通訳してくれた。


『なるほど、こんな事情か。女の子を困らせる男は許せんな。何をしたらいい?』

グウィエンはようやっと手紙の内容を理解し、エリック達に向き直る。


『特別な事はない。ただ相手の自滅を待つのみだ、その際に少しティタンの良さを言ってもらえればいい』

早口で、かつ別な言語でのやり取りに三人は慣れているようだ。


「秘密の話をするときはいつもあぁだ。俺は断片しかわからない」

ティタンもお手上げのようだが、レナンはそれについていき通訳をしてくれる。


改めて姉の凄さが分かった気がした、こういうところもエリックが気に入ったのだろうな。

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