第30話 決着
「もう話し合いは終わりだ、オーランド。自分のしたことを悔やむがいい」
ティタンの声がミューズの耳に突然入ってきた。
「いやぁ、ここまで荒唐無稽な話を作れるのは才能だな。作家にもなれるんじゃないか?」
グウィエンは上機嫌でティタンの隣に立つ。
隣に立つとこんなに高いのかと思った、ほぼほぼティタンと同じくらいの背丈だ。
「二流の話など売れませんよ。もう少しひねりを加えないと」
反対隣りに来たのはルアネドだ、細身でティタン達よりは背は低い。
ただ物腰の柔らかさと口調の丁寧さから、他二人とは対照的に見える。
「なぁ、オーランド殿。そんな作り話でミューズ嬢を本気で糾弾できると思ったか?」
声音を低くしたグウィエンはオーランドを睨みつける。
「男を誑かす悪女がアドガルムの第二王子をも誑かしたと言いたいのか? それはこのアドガルムを馬鹿にするという話だな。そんな貞操概念の低い令嬢を、王族の配偶者にするわけがないだろ。そんな大事な事の調査もしない愚かな国だと思っているのか?」
グウィエンが肉食獣のように歯をむき出しにした。
「俺の友人がそんな婚姻を認めるわけがあるか。馬鹿にするなよ」
凄むグウィエンを窘めるようにルアネドが前に出る。
「侮るなグウィエン、馬鹿だからこのような事をするのだ。先が見えるものがこのような真似をするわけがあるまい」
紫色の双眸がオーランドを睨む。
「契約を無視し、行なった所業はあまりにも悪質だ、これが跳ね返す力のない令嬢であったら、もしかしたら命すら落としていたかもしれない。身の覚えのない悪行を広められ、既存の婚約すら継続も危ぶまれただろう。婚約者がティタン様だったからそうならなかったが……女性の尊厳を踏みにじろうとした重罪を、貴様は理解できるか?」
ルアネドも怒りを露わにしている。
さすがにオーランドもこの二人は知っている。
「何故お二方がその女を庇うのですか?!」
「友人の義妹だし、俺はティタンも好きだからな。あっ恋愛対象ではないぞ!」
すっかり元のようになったグウィエンはティタンから距離を置いた。
「誰もそのようには思いませんよ。庇い立ては有難いのですが、ミューズは渡しませんからね」
そんなやり取りにくすっと笑うルアネドも、纏う雰囲気が戻っている。
「昔俺とエリックを口説いたことは忘れてませんが、今はその事は置いておきましょう。というわけで友人の為にも、友好国であるアドガルムのお嬢さんを支持します。オーランド殿の話は破綻していますし、真実味があるのはティタン様の方だ」
さらりと気になる言葉を言ったが、話の腰を折りそうで聞けない。
「ルアネド様もありがとうございます」
何とか質問したい言葉を飲み込んだ。
「ティタン様は真っすぐな方だし好感がもてます。とてもあのエリックの弟だとは思えない好青年だ。それと先程の話は忘れてください」
聞くなと釘を刺されてしまった。
ともあれこうして味方を得た為に、ティタンはオーランドの方を向き直る。
「狡いぞ、そのようなコネを使って……」
「狡いとかいうではない話だ、誰が嘘を許容できるものか」
そもそも嘘の話を広め、この場でミューズを陥れようとしたオーランドが悪いとしか言えない。
「今日の場での事がヘンデル王に知れたら、お前はもう二度と国を出てこれないだろうな」
「父は今日この場に居ない。そんな話だけで信じるはず、が……」
語尾が小さくなっていくのがわかる。
気づいたのだろう、その存在に。
「さてこれで終わりだな?」
楽しそうなエリックの横にはセラフィム国の王ヘンデルがいる。
ただ残念そうな目でオーランドを見ていた。
「オーランド、お前はどこまで愚かなんだ……」
ふっとオーランドが膝から崩れ落ちる。
「そんな……」
それ以上言葉を紡ぐことはなかった。
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