第15話 戦闘:《凶暴種》のワーウルフ②

【悲報】メンヘラVtuber女さん、無許可でスキル石を割って炎上、謝罪へ


 48:名無しのハンター ID:******

 そういえばあのワーウルフたちって赤色に変色してたけど、凶暴種ライオット種混じりってことだよな

 よく逃げ出せたな



 51:名無しのハンター ID:******

 まあ、近接戦闘に特化した個人配信者だから多少はね

 探索者ライセンスD級とはいえ、近接戦闘に限定すればC級並みに戦えるんじゃないかな



 53:名無しのハンター ID:******

 めめめんはよ活動再開してほしいわ



 55:名無しのハンター ID:******

 まだめめめんは遭難者リストに載ってないから多分大丈夫だと思うが

 とはいえ、ずっと解放区に戻ってないなら【汚染度】がやばいはず

 


 56:名無しのハンター ID:******

 >>48

 この前ゴブリンの凶暴種ライオット種三匹と戦ったけど死ぬかと思った

 普通種と比べてあんなに強さが桁違いになるなんて知らんかったんやが



 58:名無しのハンター ID:******

 勝手にスキル石を割ったことで炎上しているけどさ、結局のところ緊急事態だったんだから仕方なくね?

 流石にこの状況で、解放区に戻ってきたらはい逮捕は可哀そうすぎる



 59:名無しのハンター ID:******

 >>48

 明らかにおかしいよな

 何度もぼこぼこにタコ殴りにされていたし、左手なんか噛み砕かれていたし、普通だったら絶対に死んでいるレベル

 近接戦闘型ってことだから、結構身体も頑丈なんだろうけど、成人男性でも死にかねない仕打ちをよく耐えきったよな、めめめん






 ◇◇◇






 ワーウルフたちが唸り声をあげて駆け寄ってきた時、俺は正直、死を覚悟していた。

 念のため持ち込んできた金属バット一本で、この窮地を切り抜けるしかない。


(骨が水に流れるとか関係ないぞこれ! 今すぐ全力で俺の従魔を全部こっちに呼ばないとまずい!)


 近くにいる配下はたったの四匹。しかも駆け付けるまでに数分かかる。

 となるとさっさと逃げ出せばいいのだが、ここに今、足をワイヤーで括られてしまっている女性めめめんがいる。

 逃走する選択肢はない。ここで何とか、踏みとどまる必要がある。


「っらあ!」


 投擲で足元の石を拾って投げる。なるべく鋭そうな平べったい石。狙いは目元。生き物は顔面の攻撃を無意識に避ける傾向にある。

 咄嗟に足を止めたワーウルフ相手に、俺は更に金属バットで殴りかかった。金的攻撃。絶叫。手ごたえ十分の痛撃。


 僅かの間、即座に後ろに飛びのく。別のワーウルフのかかと落としが眼前に炸裂した。跳ね上がる水飛沫。油断せずもう半歩下がる。目の前を切り裂く鋭い爪撃。また別のワーウルフ。

 集団戦はこれだから厄介なのだ。息をつく間もない。


「ふっ」


 金属バットで足元の水をばさあと薙ぎ飛ばし、視界をくらます。だがそんな程度でひるむワーウルフどもではない。構わず飛び込んでくる一匹。俺は身を固くした。

 すわ一撃か、と思った刹那――。


「はああっ」


 横合いからめめめんが飛び出してワーウルフを殴っていた。凄まじい威力。殴られた個体は大きくよろけて水面に身体を打ち付けていた。

 その隙に、俺とめめめんは更に後ろずさった。


 流石は近接戦闘型。俺なんかよりも膂力はありそうである。しかし足の動きがワイヤーに制限されていて、かなり戦いづらそうに見えた。


(あと少し時間を稼げたら……っ!)


 近接型のめめめんに金属バットを渡すか? とちらりと思いついたが即座に却下した。相手のワーウルフどもは、おれたちが二人いるから警戒しているのだ。

 俺は金属バットがないとまともに戦えない。そして戦えるやつがめめめん一人になった瞬間に、一気に調子付くのは目に見えている。


 焦れったい攻防。しかし均衡は長く保たない。

 覚悟を決めたのか、ワーウルフが一匹横から大外に回りこんで近づいてきた。その隙にワーウルフどもが正面から複数体やってくる。二方面攻撃である。


(それならこうだ!)


「めめめん目をつぶって!」

「!」


 覚悟は決まった。俺は首飾りの魔石を一つ引きちぎって投げつけた。

 展開される魔法陣。予め仕込まれていた閃光魔術が炸裂する。光に塗りつぶされる最後の光景は、怯むワーウルフたちの姿。


 視界が眩んだその隙に、俺は勘でバットを振り抜いた。


 鈍い感触。

 そして水面に倒れ込む音。

 ばちゃばちゃと忙しなく水を蹴る音。

 同士討ちしているのか、混乱するワーウルフたちの声があちこちに聞こえる。


(上手くいった! 水辺で匂いの流れる方向がおかしくなってるお陰で、奴ら、音を頼りに暴れてるだけだ!)


 多分、俺が金属バットで殴りつけた奴が倒れたのだ。

 そして、そばで大きな水の音が立ったから、ワーウルフが警戒してその方向に攻撃を仕掛けて同士討ちが始まったのだ。


 勝った、と俺は思った。

 めめめんの肩を抱きながら静かに後ずさる。


 ほぼ同時に、ざっばざっばとけたたましい音が背後からやってきた。間に合った。

 あの絶望的な状況から、上手く時間を稼ぐことに成功したのだ。


「――


 俺の命令は短かった。視界の眩んだワーウルフたちなぞ、俺のケンタウロス型スケルトンをもってすれば敵でも何でもなかった。






 ◇◇◇






 ■カンザキ・ネクロ

【探索者ランク】

 F級探索者

【ジョブクラス】

《一般人Lv8→9》《死霊使いLv2》

【通常スキル】

「棍棒術3」「強靭な胃袋1」「投擲術1」






――――――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る