第4話 雑魚狩りをひたすら続けて、素材回収とレベル上げがルーチンワークになるやつ


 解放区の壁の外部、いわゆる《未解放区》や《未開拓区》と呼ばれる場所は、瘴気の影響のためか植物の異常繁殖が起こっている。専門的に言うと植物群落化である。

 これらが昆虫型、動物型の魔物の餌になったり、魔物を保護する住処になったりする。


(植物化が激しい場所は危険だって、探索者ギルドの講習でも叩き込まれたな)


 野営の準備を進めながら、俺は周囲を見回した。

 これぐらいの植物化であれば、危険度はそこそこといったところだろうか。


 植物化が進んだ場所は、【浸透係数】が高くなる傾向にある。これは、探索者ギルドで真っ先に教えられることである。

 要するに瘴気が濃いのだ。言い換えると、「位相の異なる黒い穴」による異界化ダンジョン化が進んでいるとも表現される。


 念の為、電子端末による簡易測定も実施したが、【浸透係数】はそれほど高くない値であった。


(今日の野営はここだな、開拓推奨エリアから全然外れた場所だけど危険度は高くない)


 開拓推奨エリアから外れているということは、つまり目ぼしい資源があまり手に入らず、有用な魔物素材にも乏しい場所ということである。危険度が高過ぎるため開拓推奨エリアから外れている可能性もあるのだが、この程度の【浸透係数】ならば前者だろう。わざわざこんな場所に踏み入れる物好きな探索者はいないということだ。


 おそらく昔は住宅街だったのだろう、今はもうすっかり植物に侵食されてしまった場所に足を踏み入れる。やはりである。構造物を朽ち果てさせ、廃虚化を加速させる。

 特に高層建築物なんかは非常に危険で、骨組部分が異化植物の温床になっている可能性が高い。


 かといってただの森のほうが安全かというとそうでもない。あくまで【浸透係数】が高いか低いかで危険度は決まる。


(まあ、全然人気がないおかげで俺は骸骨を自由に使役できるんだけどね)


 今日も今日とて、新しい骸骨を召喚して魔物狩りである。

 俺の配下になった骸骨たちは、今や二十体を越えるぐらいにまで膨れ上がった。

 おかげで、小柄な魔物を数に任せて駆除するのがとても簡単になった。魔物を囲んで仕留めるのも流れ作業のようになった。


 魔物を狩り。

 魔石を剥ぎ取り。

 骨を回収する。


 ついでに、有用なキノコや薬草類ハーブを採取したり、何かの拍子に結晶化した魔力結晶体マナマテリアルも拾い集める。


 荷物の心配はしなくてもいい。骸骨たちが背負ってくれるからである。

 それにどうしても荷物が溢れるようであれば、物資輸送鉄鋼列車と物々交換できる。交換比率はとても劣悪だが、背に腹は代えられない。俺も、売却価格の高い魔石以外は、荷物を圧縮するためよく売却している。


 まれに線路沿いに難民キャンプが出来ていることもある。その場合は難民キャンプの人たちに素材を売りつけることができる。交換レートは程度だが、掘り出し物の迷宮遺骸物アーティファクトが投げ売りされていることもあるので、物資輸送鉄鋼列車よりはよほど旨味がある。


(今日はアリの魔物とミミズの魔物とムカデの魔物が多かったな)


 今回もかなりの魔物を仕留めることができた。こうした小柄な魔物は、単体の討伐難易度は高くない。骸骨たちの力を借りて、数の力で押し切るのにうってつけの相手であった。

 討ち取った魔物の遺体は、骸骨たちに食べて貰うことにした。正直なところ魔物を頭から食べる骸骨たちを見るのはあまり気持ちがいいものではなかったが、遺体を放っておいても別の魔物を引き寄せるだけなのでちょうど良かった。

 果たして骸骨たちがどうやって生き物を食べているのかは気になったが、あまり深く考えないことにした。恐らく肋骨のあたりに漂っている黒い煙で吸収しているのだろう。


(おかげで《魂魄の欠片》も、それなりの量を回収できたことだし、俺の《魂の器》の成長もそろそろかな)



 ――――――――――――――――

 ■カンザキ・ネクロ

【探索者ランク】

 F級探索者

【ジョブクラス】

《一般人Lv5→6》《死霊使いLv1》

【通常スキル】

「棍棒術3」「強靭な胃袋1」

 ――――――――――――――――



(あ、上がってる)


 身分証明証代わりの探索者証明証ライセンスをぼんやりと眺めた俺は、自分の成長に気がついた。

 ここにジョブクラスとして《○○Lv XX》と書かれているのが《魂の器》とか《魂の位階》とか呼ばれているものだ。魂魄という言い回しは分かりにくいので、探索者掲示板とかSNSでは俗にレベルと呼ばれている。


 魔物をたくさん倒して《魂の器レベル》が高くなると、肉体はより強靭になり、思考は冴え渡り、たくさんの魔道具を装備できる。

 少々語弊があるが、《魂の器レベル》の数値が大きいほうが、魂のエネルギーをたくさん使える、という話だ。とてもわかりやすい話だった。


(どうなんだろうな、身体が身軽になったり思考が冴え渡った実感はないんだが……)


 強いて言えば、ちょっと身体が熱く、頭が痛いぐらいだろうか。《魂の器レベル》を一気に跳ね上げると、無理な拡張の反動で強烈な幻覚痛を覚えたり、記憶障害に悩まされるらしいが、今のところそんな兆候はない。

 まだ身体が魂の成長に馴染んでないのかもしれない。


 拍子抜けだなと思った俺は、そのまま黙々とテントを組み立てる準備をした。

 旧住宅街なので寝床には困らない。穴だらけとはいえ屋根もあるので、雨風もある程度ならば凌げそうであった。


 ただし、どの廃屋が寝床に適しているかはまるで分からなかったので、適当に骸骨たちを突入させて、内部の魔物を駆除してから寝転がることにした。

 お酒が残ってないかなと期待したが、流石に残っていなかった。


(まあこれで、小柄な魔物だけを駆除しつづけても問題なく《魂の器レベル》が成長することは証明できたな。しばらくは今まで通りの生活かな)


 またある程度資金が溜まったら、それを元手に装備品を充実させてもいい。

 探索者道具はあればあるほどいい。当然、持ち運ぶ荷物の重量は増えるが、あまり考えなくても骸骨たちがなんとかしてくれる。


 それに、これからはもう少し退治する魔物の種類が増える予定である。具体的には、罠を仕掛けて少し大柄な魔物を狙うつもりだった。これに成功すれば、《魂の器レベル》の成長はより効率的になると思われた。





 ――――――

 独り言:

 魔石だけじゃなくて薬草や毒草などの素材を集めている理由も後で触れます。

 生産職チートとか錬金術もの(ゲームで言うとクラフトもの?)が好きなので、そんな感じで出てきます。

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