第9話 スキル石の話 / 炎上した結果、推しの配信者が消息不明になるやつ
スキル石とは、砕くとスキルを与えてくれる石である。
大抵は
精神感応作用というべきか、破砕されたスキル石からは様々な感情が胸中に流れ込んでくるらしく、その結果、人は経験を獲得するらしい。
存在しない記憶というべきか。
砕かれたスキル石から知らないはずの知識が頭の中に流れ込んで来て、身体がそれを覚えるという、とても奇妙なことが起こるのだとか。
そして探索者は――スキル石を見つけた場合は、それを探索者ギルドに持ち帰って詳細を報告する義務がある。自分で勝手に使うことは探索者ギルドの規則違反に当たるのだ。
だが、しかし。
(……そうか、めめめん自分でスキル石を使っちゃったんだな)
応援していた配信者が炎上した理由を調べて納得した俺は、何とも言えない気持ちになった。
魔物の集団に襲われている状況だった。
そして明らかに彼女は危機に陥っていた。
ついに追い詰められた彼女は――自らの命を守るために、自分にスキル石を使って窮地を脱したのだ。
やむにやまれぬ事情だったとも言えるが、規則違反は規則違反である。
(うーん……これは探索者ギルドも処分しづらいだろうけど、でも処分せざるを得ないだろうな)
心情的には、《メンヘラアイドル★めめめん》の肩を持ちたいところだが――。
緊急避難の原則がある。
いわゆる正当防衛と同じで、自分の身を守るためにやむなく法律に禁じられている行為を行ったときは、それはもう仕方がないものとして処罰を免除ないしは軽減する、という考えだ。
しかしそうは言っても、前例を下手に作ってしまうと、濫用されかねないことになる。
スキル石については特に、『自分で見つけたものなのだから自分に使いたい』という探索者が殺到してしまいかねない。判断は丁寧に行わないといけない。
もし仮にこれが許されたとしよう。そうなると、魔物の集団に囲まれている状況を意図的に作り出して、『今危険な状況なので自分にスキル石を使います!』と主張する探索者がたくさん増えることになるに違いなかった。
そうならないように、きっと探索者ギルドは厳しめの処分を下す可能性が高かった。
(あー……。配信者としては致命的だよな。自分にスキル石を使ったことで、信者がきっぱり二分化されて論争している)
■コメント欄
:これで罰されるのおかしくない!?めめめんは悪くないよ
:はークソクソ、これだから女さんは
:ソロ活動なんかしてるからこうなったんだろ、擁護の余地はねーよ
:自分を守るための最終手段なんだから仕方ないだろ、これを認めないって言い出したらもうめめめん死ねって言ってるようなもんだろ
:本当に切羽詰まった状況だったのかよって話よなー
:ワーウルフに囲まれてたけど、荷物も何もかも捨てて全力で走れば逃げれたと思うし、一か八か体当たりすれば抜けれる程度の包囲の密度だった
:↑エアプで草 人間にワーウルフから逃げ出せる脚力なんてねーよ
:首筋噛みつかれたら一発アウトだからな
:ソロ探索者なのにリスク管理甘くない?いざとなれば近くの人に守ってもらえるとでも思ってたのかよ
:コメ欄の治安悪くなったな、何か胸糞悪くなってきた
:今日の死亡生配信はここですか?って思ってワクワクしてたのにただの炎上でツマンネ
:かわいそうだと思うけど普通に自己責任
:倫理観の欠片もないキッズどもがわらわら湧いてんね
:でも自分が同じ状況に陥ったら迷わずスキル石を自分に使うと思うんだよな、命あっての物種だもの
などなど。
――正直、見るに堪えないぐらいの荒れっぷりである。
荒らしている人たちも、よくよく見ると、そもそもファンでも何でもなくただ悪口を言いたいから来ただけの人間が結構いるように思われた。
(今日はめめめん、ダンジョン配信動画は上げてないみたいだな。何というか、まあ正解だよな)
今日動画を上げたら、ガラの悪い探索者とか、迷惑系の配信者とかに絡まれてしまうかもしれない。
消息不明なのは心配だが、でも今は、このまま身を隠してやり過ごすのが彼女のためだと思う。
(特に、『スキル石を使ったことがある人間が死んだらスキル石がそばに落ちる』なんて迷信がまことしやかに囁かれているぐらいだもんな。その迷信を真に受けた奴に狙われたりしたら、凄く危険だし)
それこそが、スキル石の詳細を探索者ギルドに報告する義務がある理由でもある。
探索者自身の保護のため、未知のスキルの危険性を排除するため。
巷ではあれこれと良からぬ噂をされているが、探索者ギルドはそんなに悪い組織ではないのだ。
◇◇◇
10日ぐらい経過しても、めめめんは配信を再開する素振りを見せなかった。
まあそういうこともあるか、と俺はあまり気にせず、次の探索に向かうことにした。
流石に10日も経っていると、配下の従魔たちの魔物狩りも結構順調に進んでいるみたいで、どうやら俺は知らないうちに《
――――――――――――――――
■カンザキ・ネクロ
【探索者ランク】
F級探索者
【ジョブクラス】
《一般人Lv6→8》《死霊使いLv2》
【通常スキル】
「棍棒術3」「強靭な胃袋1」
○魂魄値上限(40→50):
- 人型スケルトン(1) × 10匹
- ケンタウロス型スケルトン(2) × 15匹
――――――――――――――――
(ほほー順調だなあ。どれだけ魔石が溜まっているか、今から楽しみだな。早く配下のあいつらのいる場所に合流しないとな)
リュックサックの中にリュックサックを詰める、みたいな変なことをしている俺だが、これはもう仕方がない。
今の俺は、たくさん荷物を運べるようにすることを優先したかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます