第8話 推しのダンジョン攻略配信者が炎上するやつ

 久しぶりに帰還した解放区【UMEDA‐01】は、相変わらず高度に調和された先進的な街並みであった。

 高層化された建物群。堅牢で安定した物流網。管理AIにより徹底管理された、安全で健全な社会。


 かつての魔物災厄以来、劇的に減少した人口が徐々に上向き出した先進都市なだけあって、ここは、水も食料も娯楽さえも充実している。


(ラプラスの予測演算には魔石をたくさん消費するのは仕方がないけど、でもそのおかげで人類は、徐々に解放区を増やしていってる。各ターミナルを《物資輸送鉄鋼列車》で連結するシステムを作り上げたラプラスは、人類の最後の砦だからな)


 探索者ギルドに大量に魔石を売り卸した俺は、すっかり懐が暖かくなっていた。今回の遠征は特に長かった。その分手に入った魔石の量も尋常ではない。一つ一つの質はそれほど高くはなかったが、質より量とはよく言ったもので、これだけの数の魔石ともなればかなりの価値になった。


 電子端末にチャージされた資金マナは相当な額にまで膨らみ、三ヶ月は遊んで暮らせそうなぐらいの貯蓄になった。

 これも骸骨軍団を操れるようになったお陰である。


(本当に三ヶ月遊んでやろうかな、どうしようか)


 流石にそんなことをすると身体が鈍ってしまいそうである。ギルドのトレーニング設備で訓練をしたりしても、やはり気の緩みはあるもので、筋肉量を増やしたりすることは出来ても、探索者としての勘が衰える気がする。


 でもせっかくたくさんお金が溜まったことだし、しばらくはリフレッシュに充てたいような気もしている。医療機関に精密検査してもらいながら、全身ケアを受けてもいいかもしれない。医療用細胞培養液medical cell culture fluidプールに浸りながらぐっすり眠ると、不思議と疲れが取れるのだ。


 変に大量にお金が入ると使い道に困ってしまう。根が貧乏性なのだ。そもそも俺は、探索者にしては物欲がない方なので、たくさんお金があってもあまりピンとこなかったりする。

 放置しながらたくさん魔物が狩れるようになったときはすごく喜んだものだが、いざお金を何に使うかと考えると、仕事道具とかになってしまうのが悲しいところであった。


(そういえば、《メンヘラアイドル★めめめん》のダンジョン攻略配信はどうなったのかな)


 ふと心配になった俺は、電子端末を立ち上げて《メンヘラアイドル★めめめん》について検索を行った。


 まとめブログやSNS、切り抜き動画をさっと確認する。見ると、どうやら探索は順調らしい。地下鉄線路の除染は丁寧に実施されているらしく、ペースはやや遅いものの、堅実に進んでいた。

 同じソロ探索者として《メンヘラアイドル★めめめん》には頑張ってほしいところであった。


(それにしてもこの子、なんでソロ探索者なんだろうな。俺も人のことは言えないけどさ)






 ◇◇◇






 ダンジョン攻略配信者――現在、人気を博している職業の一つである。


 配信用ドローンを使って、ダンジョンをいかに攻略していくかを配信して日銭を稼ぐ。動画再生数に応じて広告収入が入る他、人類の発展に有益な動画と判断されたら《神託機械付き演算活動体ラプラス・エンジン》による追加報酬が発生する。視聴者からの投げ銭スパチャも大きい。


 特に探索者の初心者は、ダンジョンに潜る際、何に気をつければよいか分からないという人たちが多い。かといって教材ビデオは退屈でつまらないものが殆どで、人々の意識付けには不向きであった。

 面白おかしく動画を配信してくれる配信者たちは、その点、ダンジョン攻略動画にうってつけであった。どう立ち回ればいいかというセオリーの解説を中心に、初心者が絶対にやってはいけないことを面白半分、啓蒙半分で実践してくれたり、危険なときにどう離脱するかを実演してくれたりと勉強になるものがたくさんあった。


 装備の準備、狙うべき探索エリア、魔物の生態、戦闘時の立ち回り、迷宮遺骸物アーティファクトの探し方――と、探索者が学ぶべき題材は多岐にわたる。

 それらを、全くつまらない教材で学ぶよりも、生き生きしゃべるから勉強したいという需要は非常に大きかった。


(まあ俺の場合は絶対に配信なんかできないんだけどな。自分の能力は墓場まで持っていきたいぐらいだからな。色んな意味で)


 俺には絶対できない仕事だな、と思いながら俺は苦笑いした。


 配信収入は馬鹿にならない。

 高価な装備品を購入したりする関係で、実力のある探索者であればあるほどダンジョン攻略配信をやる人が多い。特に高ランク探索者が配信を始めると、すぐにスポンサー契約の案件が来て、高級な装備品を試供品として提供してもらえたりするので、ランカーと呼ばれる探索者たちは、ほぼ漏れなく配信を行っている。


 匿名の謎の高ランク探索者も、いるにはいるのだが、残念ながら少数派である。

 例えば、配信を全然やらない探索者は、もしかしたら犯罪者だったり、表に出られない訳アリの経歴持ちなのでは――と勘繰られてしまう風潮もある。変な風潮だとは思うが、そういう風聞を流すのが好きな暇人はたくさんいる。


 そうは言っても俺は、どこまで行っても配信したくない。きっと今よりもっとお金に困ったとしても配信活動は始めない気がする。正直、配信をしている探索者たちは凄いと思う。尊敬する。


(……? あれ、めめめんの配信が炎上している……?)


 ふと、何気なくネットニュースの記事が目に飛び込んできた。

 俺が応援している個人勢の配信者めめめんが、何があったのかは知らないが炎上騒動に巻き込まれているらしかった。






 ――――――

 独り言:

 炎上する配信者ヒロインを助ける展開は王道だと思っています。

 めめめんは、もうしばらく後になってから再登場します。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る