第7話 街に帰還しながら、ダンジョン攻略配信者の動画を見るやつ

 あれから、ケンタウロス型スケルトンの数が増えて、とうとう15体になった。俺のジョブクラス《死霊使い》のレベルも伸びて、合計で魂魄40個分までの魔物を使役できるようになった。今の俺の配下はケンタウロス型スケルトン15体と普通の骸骨10体。随分強くなったと思う。


(何が強いって、ケンタウロス型スケルトンが増えたお陰で、逃げ足の速い魔物も追いかけて狩れるようになったってところだよな)


 これは嬉しい誤算だった。ケンタウロス型スケルトンが増えた恩恵は、如実に表れていた。

 逃げ足の速い魔物を討ち漏らさなくなったおかげで、魔物を仕留められる量が飛躍的に増えたのだ。

 逃げ足の速い魔物は大抵、ウサギやらイタチやらタヌキやらの小動物が多い。稀にイノシシやシカ等の中型の魔物も含まれる。

 通常のスケルトンでは逃げ出すこれらに追いつけなかったが、ケンタウロス型スケルトンたちは、足の速いこいつらをものの見事に仕留めてくれた。


 冷静に考えると、足の速い15体の従魔たちが束になって集団で戦うのだから、魔物狩りがさらに順調になって当然というものだ。足の遅い40体より、足の速い15体ということだ。そもそもその15体も通常のスケルトンより強い。

 この結果も宜なるかな、というやつだ。



 ――――――――――――――――

 ■カンザキ・ネクロ

【探索者ランク】

 F級探索者

【ジョブクラス】

《一般人Lv6》《死霊使いLv1→2》

【通常スキル】

「棍棒術3」「強靭な胃袋1」


 ○魂魄値上限(40):

 - 人型スケルトン(1) × 10匹

 - ケンタウロス型スケルトン(2) × 15匹

 ――――――――――――――――



 ここまで順調だと、何も文句はない。そろそろ【解放区】に戻って魔石の換金を行いたいので、俺は遠征を一旦切り上げることにした。


 ケンタウロス型スケルトンたちには、引き続き外を巡回してもらって、自分たちで適当に魔物を狩ってもらうことにした。《神託機械付き演算活動体ラプラス・エンジン》のレポートによると、この辺の【浸透係数】はそんなに高くない。電子端末で簡易測定しても同じ結果だった。


 ということは、彼ら骸骨たちを放置しておいてもしばらくは大丈夫ということである。死霊たちの強みといえば、日夜問わず、ずっと休まずに働くことができるという点である。

 しばらくの間は、この辺一体を綺麗に掃除し続けてもらって、《魂魄の欠片》を吸収してもらい、魔物を食べてもらい、魔石をはぎ取ってもらい……と仕事をしてもらうのがいいだろう。


「街に戻るか。さっさと帰って配信見なきゃ」


 魔石でずっしりと重くなった背嚢を背負い直しながら、俺は独り言を呟いた。

 またもや大きく儲かった。解放区【UMEDA-01】に戻ったら、装備品も充実させたいし、新しい道具も買いそろえたいところであった。






 ◇◇◇






 すっかり植物群落化が進行してしまった場所から、どんどんと植物の侵食が緩やかな場所まで戻っていく。見た目ほど【浸透係数】は高くないものの、それでも気持ちのよいものではない。

 かつて植物は、地上の支配者であった。時代はすっかり変わってしまったが、今でも植物は地上の支配者なのではないか――と、ふと思うことがある。


 景色がどんどん開けていく。

 植物化の穏やかな場所。

 人類がに成功した土地は、もう近い。


 線路沿いまで戻ると、もうすっかり植物の影も形もなかった。つまり魔物がそばに住んでいないと言える。魔物は基本的に、植物が群生している場所に棲み付く習性がある。理由は分からないが、自然と共にある生態系なのだろう。

 たまに線路沿いまで迷い込んでくる魔物はいるかもしれないが、その程度である。


 線路沿いでは、テントを張って寝泊まりしている探索者の姿もちらほら見かける。

 俺もその一人になるつもりだった。

 きっと彼らも俺と同じで、不定期に線路を通る《物資輸送鉄鋼列車》の到着を待っているのだ。


「……あ、来たな」


 甲高い音を立てて、《物資輸送鉄鋼列車》が近づいてくる。

 乗せてもらうために、俺は背嚢から発煙筒を取り出して発火させた。周囲の探索者たちも同じように発煙筒を取り出して発火していた。


 この《物資輸送鉄鋼列車》は、解放区と解放区を繋ぐ重要な物資輸送手段である。

 そして、俺たち探索者にとっては、安全な解放区へと帰還するための貴重な手段でもあった。






 ◇◇◇






『愚民どもー! ご機嫌いかがー!? オタクに優しいメンヘラお嬢様、めめめんでーす!』


 電子端末から、明らかに無理やりテンションを上げてるんだろうな、という声が聞こえてきた。

 最近見つけた動画配信者。

 ダンジョン攻略動画を中心に活動する女性VideoTuber、その名も《メンヘラアイドル★めめめん》である。


 ■動画コメント:

 :きちゃ

 :キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

 :待ってた

 :めめめんの声低くてキンキンしないから好きなんだよな

 :助かる




 正直、《物資輸送鉄鋼列車》での移動中は何もやることがない。暇を持て余した俺は、通信状況が良くなっていることを確認して、電子端末で動画を流すことにした。


 この《めめめん》という配信者だが、ぶっちゃけ売れていない。再生数がちょっと伸びてる程度の個人勢である。少し探せば、他にもっとたくさん再生されている動画配信者はいっぱいいる。

 だがしかし、活動拠点が同じ解放区【UMEDA-01】近辺ということもあって、俺は勝手な共感を覚えていた。

 ちょいちょい粗があるが、ちょっと応援したくなる何かがあった。俺と同じソロ探索者というのも、ますます共感できる点だった。




『今日はね、解放区【UMEDA-01】の地下線路拡張探索に出かけまーす! 旧メトロ御堂筋線ダンジョン、頑張って浄化していきましょう!』


 ■動画コメント:

 :御堂筋線なあ

 :【Domain:JPN】屈指の超危険な場所じゃん

 :↑たくさん探索者いるし浅層は整備されてるから意外と大丈夫よ

 :ラプラスシステムの地下拡張計画って、まだ続いてたんだ

 :いつもダンジョン攻略動画、参考にしてます

 :はよ戦ってほしい

 :旧地下鉄ダンジョンって無数に魔物湧くよな、その分素材も美味しいけどさ

 :いのちだいじに

 



(そうか……。《めめめん》は地下鉄の線路拡張探索に協力してるんだな、偉いな)


 今回のダンジョン攻略動画は、地下拡張がメインテーマらしい。


 線路拡張探索。

 解放区【UMEDA-01】のように、旧地下鉄が元になっている都市は、外部に線路がたくさん伸びている。そこにいる魔物を駆除し、群生する植物の除染をすることを線路拡張探索という。


 線路の浄化に成功すれば《物資輸送鉄鋼列車》を安全に走らせることができる。つまり、探索者はより遠くまで活動範囲を広げられるし、解放区はより遠くから物資を回収することができる。


 また、線路の浄化をどんどん広げていけば、そこを足掛かりに重厚な街壁をさらに広げて、居住区を増やすことができる。解放区【UMEDA-01】はそんな調子で、何度か拡張が試みられている都市でもある。


 未だに成長を続ける巨大人工都市アーコロジー、解放区【UMEDA-01】。

 流石は《神託機械付き演算活動体ラプラス・エンジン》に《特別指定都市》扱いされている解放区である。


(まあ、《めめめん》がどこまで行くのかは知らないけどさ。線路拡張探索は浅層が中心だから、そんなに危険じゃないはず……)


 動画を流しつつも、俺は少々うとうとし始めていたので、目を瞑ることにした。

 線路拡張探索といえば、俺も昔に何度かやったことがある。ネットスラングでよく"地下鉄清掃"とか言われる住み込みのバイトだ。魔物はあまり強力じゃないのだが、とにかく植物の除染作業が面倒くさくて、生命力の強さにあきれたものだ。


 後で《めめめん》の配信アーカイブでも見よう、と思いながら、俺はしばらく眠ることにした。《物資輸送鉄鋼列車》に揺られながらのまどろみは、非常に心地よかった。






 ――――――

 独り言:

 現代ダンジョンものにありがちな『配信者ヒロイン』です。

 リメイク前のめめめんは、主人公に裸を見られたり、ぶっといミミズを咥えさせられたり、さんざんな子でしたが……今回はどうなることでしょうね。

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