第18話 心強い仲間が得られるやつ / 掃除をしたら下着が出て来るやつ

「  っ た な ! 」

「はい……」


 思わず声を出してしまった。隣で彼女は委縮していた。一人暮らしに慣れていないのか、と思うぐらいの壊滅ぶりだった。自堕落。

 メイラ女史に連れてこられた旧サービスエリア跡地は、謎の段ボール、大量の毛布、その辺に転がった物で溢れかえっていた。正しくは生活に使っている一角だけが散らかっているだけで、全面が汚いわけではないのだが、普通にホームレスが段ボールを使って生活してる感じが滲み出ていた。

 あと、屍鬼グールたちが周辺を周回しているせいなのか、血のような跡が地面にへばりついている。蜘蛛の巣もあちらこちらに張ってある。他にも、食べ終わったインスタントラーメンのカップの中に丸めたティッシュが突っ込まれていたりと、妙に生活感があって普通に汚かった。せめて食べ終わったゴミぐらい掃除しろ、と思ってしまった。


「はい、あの、どうせ野外拠点だからっておざなりにしてて……! で、でも、はきちんと綺麗にしてますので! はい!」


 一人暮らし用のお家、まるで他にも家があるみたいな言い回しにちょっと引っかかったが、まあ聞き流しておく。


 このサービスエリア跡地には、車はほとんど存在していなかった。駐車場は真ん中が陥没していて妙な湖を作っており、時折こぽこぽと泡が立っていた。湖の水は、飲用に適しているとは思えない緑っぽい見た目をしている。匂いはあまりしなかったが、煮沸させて濾過して飲むのは勇気が要る。

 外の喫煙所みたいな場所には、屍鬼化したカラス?の眷属がいて、ごえごえと気持ち悪い鳴き声をあげてゴミを漁っていた。多分、ここをゴミ捨て場として使っているのだろう。カラスは監視役らしい。


「カラスって賢いんですよね。光り物を集める性質だからか、たまに指輪系の迷宮遺骸物アーティファクトとか拾ってくれますよ。あとカメムシとか食べてくれますし」


 サービスエリアの遺構自体は、異化植物の侵食は目立たず、比較的綺麗な見た目をしている。だが計測された【浸透係数】はそれなりに高い数値で、おそらく鉄骨部分など見えない部分が異化植物の温床になっているのだろう。

 建物内部は、多数の魔石を蓄積しておく場所、薬草類の素材を蓄積しておく場所、鉱石類の素材を蓄積しておく場所、迷宮遺骸物アーティファクトを蓄積してく場所、などに分かれていた。屍鬼グールたちが時折やってきては、素材を持ってきて指定の場所に置いて、ということを繰り返していた。恐らく、外で屍鬼グールたちに魔物を狩らせて、素材集めまでを自動化しているのだろう。素材の細かい仕分けは眷属たちには無理なので、とりあえず魔石、薬草、鉱石ぐらいの大まかな分類をした段ボールの中に放り込んでもらって、いっぱいになったら人間メイラの手で仕分ける――ということをしているらしい。

 そういえばめめめんの動画の中で、素材の見分け方の解説をしているものがあった。薬草類はこうやって見分けろ、という奴だった。サンプルとなる素材はこうやって集めてもらっていたのだろう。周りを見回せば、あちらこちらに薬草を干してあった。






「で、ここがシャワーですね。外の給湯器が魔石で動くタイプなので、魔石を設置して動かします」


 シャワールームとトイレは外にあった。シャワーは硬貨を入れてお湯を出すタイプだったが、電気制御が壊れており、硬貨を入れなくても水が導通するようになっていた。しばらく水を出すと、しっかりお湯が出てきた。見た目も綺麗なお湯である。

 これは非常にありがたい。今までの野宿で、寒い日に水浴びしていたことを思うと、お湯が使えるというだけでも大助かりである。


「……なるほど、そばにろくな水場がなさそうに見えるから、誰も寄り付かないのか」

「ですね。巡回している魔物も屍鬼グール系が多くて、耐久力が高くて討伐は面倒だし、肉は食べられないし、素材も大した価値がないし、探索者にとっては旨味が全然ないように見えますからね」


 探索者にとって、水場がないというのは致命的である。飲用水がないと人間は三日で死ぬ。このサービスエリア遺構は、高速道路の傍に川がなく、目ぼしい水場がないように見える。探索者ギルドの公開している開拓推奨エリアの地図に載っていないのはそういう理由なのだろう。

 付け加えると《物資輸送鉄鋼列車》の線路から距離があるというのも大きなマイナス要因である。病気になったり大怪我をしたりと、いざという時にすぐ【解放区】に帰還できないというのは不安要素である。


「ここなら広いですし、使役している魔物がたくさん増えても、しばらくは拠点として使えるんじゃないかなーと思っています」

「そうだな……」


 メイラと自分。

 俺が使役している分が、人型スケルトン(1)が8匹と、ケンタウロス型スケルトン(2)が18匹。同じく、彼女が使役している分が30匹程度とのことで、二人合わせると50匹近い眷属を従えていることになる。この規模の魔物の群れになると、数の暴力で、多少危険な魔物でも余裕を持って討伐できるだろう。

 お互いに秘密を抱えた者同士。能力の相性もよさそうで、しばらく手を組んだ方が活動の自由度も広がりそうであった。


「メイラさえよかったら、しばらく泊まらせてもらってもいいかな」

「はい! どうぞどうぞ!」


 俺にとって何のマイナスもない以上、共闘を躊躇う理由はない。彼女にとってもそれは同じだろう。メイラの笑顔は明るかった。屍鬼グールであることを全然忌避せずに受け入れてくれて嬉しい、なんて、ちょっと闇の深そうなことを呟いていたが、それは俺も同じである。


(こんなに可愛くて気立てのいい子なのにな。受け入れてくれないとか孤立していたとか、ちょっと可哀そうだよな)


 それはそうと、二人で早速寝床を綺麗にする作業は行った。下着が出てきた時、ぎゃあぎゃあ喧しかったが、流石に勘弁してほしかった。

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