第17話 新しい拠点を手に入れるやつ

『お腹の目を見て、自分の正体グール化に気付いても、気味悪がらない人』

『魔物たちから命懸けで守ってくれた人』

『声に何だか逆らえない、つい従いたくなってしまう謎の魅力がある人』

『炎上で心が弱っていたときに、ファンだと言ってくれた人』

『あとエロい目で見えたのに気づきながら『自分も同じことを考えている』とむしろ気のある素振りを見せた人』


 ……という状況で、ネクロ青年がメイラを縄で縛って一緒のテントで寝ることになった。

 寝袋は二人分あったが、彼女の頭の中はいよいよ煮えそうであった。


 あの状況下で自分を囮にして逃げ出さず、命懸けて戦って、しかも肩を抱き寄せたりなんかしてくるなんて、そんなのずる過ぎる。

 これはもう逃れようがない。決定的だ。心の準備がまだ出来ていない。確かに顔は少し好みかもしれない。目に焼き付けてしまった。私みたいな出来損ないの人間が人並みに恋ができる日がくるなんて。不気味な自分が性的に求められるなんて嬉しすぎる。

 そんなまとまりのない思考が延々とめどなく頭に流れた。


 翌日。

 何事もなく朝を迎えたとき、メイラは自分の壮大な勘違いではないかと気付き、顔から火が出そうな思いを味わうことになった。

 ちなみに彼女自身も盛り上がるだけ盛り上がっておいて、疲れから気付かないうちにぐっすり寝てた。

 平和なものだった。






 ◇◇◇






「ネクロさんって魔物を眷属にできるんですね。私も同じです」


 めめめん、ことメイラ女史にそのようなことを言われて、俺は思わず目を剥いてしまった。

 魔物を眷属に出来る。私も同じ。

 まさか俺とここまで同じ境遇の人がいるとは思ってもいなかった。


「そうなんで……そうなのか!?」

「はい。それと今、敬語言いかけましたよね」


 俺は別に敬語同士でもいいと思うのだが、どうも彼女は敬語で話しかけられるのが嫌らしい。

 昔を思い出すとか言っていたので、多分、周囲に敬語で話しかけてくる大人たちがたくさんいて嫌だったのだろう。

 ということはもしや本当にお嬢様なのではないか、という疑念が再度頭をもたげるが、あまりその辺には触れないでおく。過去に触れると嫌がる人は結構な数いるものだ。

 それより、今は眷属の話である。


「あ、いや、眷属……そうだな。実は俺、一日に二匹ずつ新たに死霊を使役できるんだ」

「私は……ええと、一日何匹とかいうのを実験してなかったです。噛みついたり引っ掻いたりしたら一時的に屍鬼化グール化させることが出来て、血を飲ませたら眷属化です」


 お互いに情報を開示し合った結果、どうやら下記だと分かった。


 ――――――――――――

《死霊使いLv2》

 備考:

 ・一日当たり二匹の死霊と使役契約を結ぶことができる。

 ・一日一回(?)だけ配下二匹を合成できる

 ・最大で《魂の位階》× 5匹の死霊を操ることができる。


《屍鬼姫Lv1》

 備考:

 ・肉体が屍鬼化して、身体能力が向上する。

 ・噛みついたり引っ掻いたりした相手を一時的に屍鬼化グール化して暴れさせられる

 ・血を飲ませた相手を眷属にして、使役契約を結ぶことができる

 ・最大で《魂の位階》× 5匹の屍鬼を操ることができる。

 ――――――――――――


「《屍鬼姫》の能力は、噛みついたり引っ掻いたりした相手を一時的に屍鬼化グール化させる能力です。《屍鬼姫》のジョブクラスを獲得したのと同時に、頑丈な耐久能力も手に入れました。腐ったものを食べてもお腹を壊さなくなって、毒や病気にも強くなりました」


 説明を聞いていると、俺の能力より便利かもしれない、と思った。

 一時的な屍鬼化グール化は一日一匹とかそういった上限制約がないので、俺よりも柔軟に運用できそうである。しかも身体能力の向上と来ている。どうやらあらゆる生理的な活動が活発化しているらしく、近接戦闘能力も屍鬼化グール化により底上げされているのだとか。


 となると、俺の能力の強みは合成ぐらいだろうか。

 他にも色々ありそうな気がするが、今のところはこれと言った優位性を思いつかない。


「ところでメイラの眷属はどこにいるんだ? 俺みたいにどこかを拠点にしているのか?」


 ふとした疑問。

 果たして、彼女の眷属はどこにいるのか気になったが――。


「……。あの、はい。実は、眷属たちを遠くに置いてきてまして……」

「やっぱりそうか」


 半ばそうだと思っていたが、予想通りであった。

 一旦【解放区】に戻るために、拠点に大半の眷属を置き去りにしてきたのだろう。そして眷属がいたらもちろん、ダンジョン攻略配信なんかできるはずもない。

 だから今彼女は身軽なのだ。まさか【解放区】に戻ったらワーウルフの集団に遭遇してしまうなんて、そんなの分かりっこないだろう。ただのワーウルフなら切り抜けられたと思うが、凶暴種ライオット種混じりなんて不運中の不運であろう。


「拠点はこの近くの旧サービスエリア跡地なんです」

「! ああ、あのゾンビだらけの魔窟か……!」


 納得がいった。確かにあのあたりも開拓非推奨エリアであり、あまり旨味のない場所である。


 それに旧サービスエリアというと、もし運が良ければ遺構が生きていて、いろんな設備が使用できるかもしれない。

 例えば、旧ガソリンスタンドが異化して迷宮化ダンジョン化し、そこからガソリンを定期的に取得できるようになった事例があるらしい。旧病院跡地からは鎮静剤やら薬品類。旧図書館からは存在しない謎の本。そういった迷宮遺骸物アーティファクトが多数見つかっているという。


 実際、メイラに聞くと、旧サービスエリアではシャワー設備が生きていてお湯を浴びられるらしい。地味にありがたい話だった。


「じゃあそこに合流しようか。俺も旧サービスエリアに興味あるし」

「……うぅ、ちょっと緊張しますね、その、部屋、汚いんですけど……」


 お前の部屋じゃないだろ、という突っ込みが頭をよぎったが、言うべきかどうか悩んだ。

 


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死骸王のネクロ:《死霊使い》は迷宮攻略を進める RichardRoe@書籍化&企画進行中 @Richard_Roe

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