第2話 従魔の数をどんどん増やして、大量に雑魚狩りを行ってレベリングするやつ


 ダンジョン。

 それは空間のゆがみである。


「位相の異なる黒い穴」に侵食された空間、そこに足を踏み入れて魔物と戦い、財宝や資源を持ち帰るのもまた探索者の仕事である。

 この黒い穴を放置しすぎると、魔物と呼ばれる怪物が無数に湧き出てくる。不幸なことに、いくつかの国家はこの黒い穴から出てくる魔物に対処し切れずに滅んでしまった。


 かくして地上は、魔物ですっかり溢れかえってしまった。


 それでも人は、生き残るために知恵を絞った。安全な場所を作り出すために寄り集まった。

 鉄道・リニア・空港ごとに「ターミナル」と呼ばれる駅を作り、その周囲を取り囲むように大きな壁を作った。【解放区】と呼ばれる安全地帯。言い方を変えれば解放区は、魔物からターミナルを守るための砦である。


 ターミナルを守るため、ターミナルとターミナルをつなぐ線路や設備を守るため、魔物にあふれてしまった地上を奪還するため、そして「位相の異なる黒い穴」に侵食された迷宮ダンジョンを解放するため――探索者たちは魔物討伐を続けている。






 ◇◇◇






「……今日で骸骨十匹目か。増やしてみたら案の定、魔物狩りの効率が急に跳ね上がったな」


 解放区【UMEDA-01】の外を探索しながら、俺は魔物を次から次へと仕留めていた。解放区の壁の外は魔物の楽園。少し探せば魔物はたくさん見つかる。


 バッタの魔物。カメムシの魔物。ネズミの魔物。コウモリの魔物。どれも大して強くない魔物である。傷を負うと感染症にかかる恐れがあるものの、それ以外は大した脅威もなく、全身をそれなりの防具で固めていれば命の危険はない。初心者が戦闘に慣れるための相手によく選ばれる魔物たちでもある。


 とはいえ、正直得られる素材は大したことがない。他の魔物と同様に、心臓から魔石は採取できるので、それを剝ぎ取って終わりである。


(まあ、ちょっと慣れてきたら、わざわざこんな魔物を探して見つけようとはしないよな。得られる魔石も小粒で質が低いし、《魂魄の欠片経験値》もそんなに回収できないし)


 今俺が狙っているのは、こういった"あまり危険じゃないが狩るのが面倒な魔物たち"である。普通、こういう魔物はわざわざ狩る理由がないのでやたらと繁殖するのだが、今俺はそれをまとめて一気に狩ることをやっていた。

 バッタの群れ。カメムシの群れ。ネズミの群れ。コウモリの群れ。


 正直美味しいか美味しくないかで言うと、美味しくない仕事だ。

 魔物の討伐証明部位をはぎ取るのも一苦労だし、たくさん討伐証明部位を集めてもかさばって仕方がないし、集められる魔石の質も低い。その上、《魂魄の欠片経験値》もそれほど回収できないとなると、もっと強い魔物を狙った方が効率的である。


 なので、もっと強い魔物を狩って《魂の器》を成長させて、より高価な素材を狙う……というのが一般的な探索者の考え方である。専門に特化して、多くの人とパーティを組んで役割分担をして、より強力な魔物を狩る。

 そうして多数の探索者が無茶をして命を落とす。


(別に俺のやり方ソロ活動が手堅いってわけじゃないけどな。命の危険はどこまで言ってもゼロになるわけじゃないし。何というか俺の場合は、コツコツやるのが性に合っているってだけだ)


 特に、《死霊使いネクロマンサー》というジョブクラスを手に入れてからはその傾向が顕著になった。


 恐らくこのジョブクラスは世間一般には知られていない。この能力をあまり広めたくはない。

 それに、自分一人でも大量に魔物を狩れるのであれば、他の人とパーティを組んでまで強い魔物を狩る理由があまりない。







(一日一匹しか従魔を増やせないとはいえ、やっぱり数は力だな。おかげで随分と狩りが楽になった)


 俺は骸骨たちを見回しながらしみじみと感慨に耽った。


 味方が十匹もいれば、魔物狩りも随分順調に回るものである。

 小柄な魔物を寄ってたかって叩くだけ。簡単なお仕事である。魔物を討ち取った後の魔石採取も骸骨がやってくれるので手間もかからない。


 それに、戦闘で骸骨が傷ついても問題はなかった。どうやら、倒した魔物の骨を自前で傷を治せるらしい。まさか魔物が魔物を食べるなんて思ってもみなかったので、最初にそれを見かけたときはかなり衝撃を受けた。


 とはいえ、毎回無事というわけではない。


 度重なる戦闘のせいか、頭やら右腕やら左足やらを失っている骸骨がいた。一匹は脊髄がぼっきり折れて上半身しか帰ってきていない。

 全員、身体のあちこちにヒビが入っているし、武器は紛失している。

 やはりどうしても、魔物狩りにつぎ込んでいる骸骨たちの損耗は激しくなってしまう傾向にあった。


(骸骨たちの自己修復にも限度があるってことだな。もしかしたら、十分に時間をかけたら修復するのかもしれないが……)


 損耗の激しくなった奴らは後方支援に回した方がいいかもしれない。こいつらは別に、俺の荷物を運んでくれたり、俺の代わりに魔物の接近を察知してくれるだけでも十分である。身体が欠損していてもさほど問題はない。


(まあいいか。骸骨が魔物を倒しても、問題なく《魂魄の欠片経験値》を回収できている感じがするし……俺の《魂の器レベル》も徐々に成長している、気がする)


 十匹の骸骨たちに周囲を警戒させながらも、俺はテントを張って、軽く睡眠を取ることにした。

 もう少ししたら、解放区【UMEDA-01】に戻って魔石を売り捌いてもいい頃合いであろう。飲み水や食料の備蓄が心許なくなってきたことだし、それに俺も未解放区にずっといるせいで【汚染度】が高まっている気がする。


 解放区【UMEDA-01】は巨大ターミナルを有する人工都市アーコロジーである。解放区の外のように草木に覆われた場所ではなく、きちんと整備された豊かな社会。

 もうひと稼ぎしたらさっさと帰って、暖かい風呂にゆっくりと浸かりたいところであった。





 ――――――

 ■この作品でやりたいこと(予定)

 ・世界観:

  - 文明崩壊後ポストアポカリプスとディストピアの世界

  - 現代ダンジョン系のハクスラ世界

 ・面白さポイント:

  - 放置ゲーみたいにコツコツ徐々にできることが増えていく

  - 淡々としたスローライフを中心に、ハクスラ要素や、配信要素を味変に組み込む


 序盤は、《魂の器レベル》やら魔石やらダンジョンやら、説明を丁寧に掘り下げる予定です。

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