第13話 冥宮メイラの能力 / 全裸を見られるやつ


【悲報】メンヘラVtuber女さん、無許可でスキル石を割って炎上、謝罪へ


 22:名無しのハンター ID:******

 結局こいつ、何のスキル石割ったの?

 急にワーウルフたちが錯乱しだしたから、精神系の魔術スキルなのかな






 ◇◇◇






 可愛いネイルには、身体強化のルーン魔術。

 チョーカーには、髑髏を象った呪い除けの御守りタリスマン

 黒いフリル付きリボンは、中央に蝶――ケルト神話における死者の魂の象徴――を誂えたもの。


 多少の被弾は覚悟の上。

 ナックルダスターを使って接近戦で殴るという、超攻撃的な近接戦闘型。


 メンヘラでお嬢様なアイドルの癖に、めめめんはそういったピーキーな戦闘スタイルで売っているダンジョン攻略配信者であった。


(やば、もう駄目かも。左腕が動かないや。でもし、どうしよう……)


 この日、めめめんこと、冥宮めいのみやメイラは己の不運を呪っていた。

 旧地下鉄の線路を探索していた彼女は、運悪くワーウルフの集団に直面し、戦闘を余儀なくされたのだった。

 彼女が活動していたのは、ある程度除染が進んでいた場所だったので、そんな強敵と遭遇するほうがまずおかしい。


 特にワーウルフの集団の中には赤色に変色した個体もおり、恐らく凶暴種ライオット指定を受けているのだろうと思われた。凶暴種混じりの魔物の集団の討伐は、探索者ライセンスにしてC級以上の実力が推奨される。

 メイラはまだD級である。はっきり言って手に余る状況であった。


 彼女は満身創痍であった。噛みつかれた左腕は折れ、擦り傷と打撲傷が無数にできた。血は全然止まらず、寒気が止まらなかった。

 それでも身体強化のおかげで、かろうじて踏みとどまっていた。


 彼女の持つ特殊な能力がなければ、この窮地からは脱出できなかった。


(あのスキル石のおかげで、私のを誤魔化せたんだから、感謝しないと)


 スキル石自体は何の変哲もない、体術の技能だった。

 だが、新しいスキルが手に入ったように見せられるのが大きかった。


 いきなりワーウルフのうち一体が、味方を襲い始めた。


 戦況は一気に混迷した。

 終始有利に立ち回っていたワーウルフたちが、状況を理解できずに包囲を崩した。

 その混乱に乗じ、彼女は何とか気力を絞ってワーウルフの包囲を突破したのだった。


 不思議なことに、ワーウルフたちは追いかけてくるのを躊躇していた。彼女の正体がどういったものなのかに気付いたのかもしれない。

 噛みついて血を飲んでしまったら錯乱する。あの女の血には何かがある――と。


(逃げ出せたはいいけど……でも、ストーカーさんが待ち伏せしてるかもだから解放区には帰りたくないし……どうしよう)






 彼女もまた、もう一つのジョブクラスを発露した人間である。それも《聖職者》や《剣士》のようなよくあるものではない。

 他に例を見ない珍しいものである。


 その名も、《屍鬼姫》。


 ――彼女はであった。

 その身は生きながらにして死んでいる。加護の祝福を受けていると言うべきか、深淵の呪いを受けていると言うべきか。

 嚙みついたり引っ搔いたりしたものを感染させ、一時的に屍鬼化させる――血を飲ませれば永続的に眷属にできる能力。


 彼女は、探索者たちの中でも極めて稀有な才能の持ち主であった。






 ◇◇◇






 地上まで何とか逃げ出したメイラは、滝のそばで休息をとることにした。

 彼女は現状、解放区に迂闊に帰れなくなっていた。


 この負傷してだらりとした左腕を見られてしまっては、病院に行かないのは不自然だと思われるに違いない。

 しかしそもそも病院には行けない。検査されてしまったら自分が屍鬼であることが判明してしまう。


 いくら危険でも、今は、衆目が集まる場所解放区には戻れないのだ。


(それに今は炎上しちゃったからね。私の正体に迫ろうとする奴が出てきたら困るし)


 メイラは嘆息した。

 炎上騒動のせいで、今の彼女は危険な状況にあった。


 冗談半分で加害しようとしてくる迷惑系配信者。

 めめめんを守ろうと気取る、ストーカー予備軍の厄介ファン。


 そんな連中に付け狙われることを考えるとぞっとする。


(とりあえず血の匂いを消さないとまずいよね、魔物が来ちゃう)


 服を脱いで滝の近くで身を清める。人間の匂いは獣からするとすぐに分かってしまうらしく、こうやって身を清めることが大事とされた。


 水辺に魔物がいないことは確認した。

 念の為ナックルダスターとチョーカーは身に付けていくものの、心配はなさそうであった。


 埃汚れ、砂汚れ、血の跡。

 戦いで付いた傷もあれば、倒してきた魔物から浴びた返り血もある。


 ざぶざぶと水で身を清めると、身体の芯から疲れが溶けて出ていくような気がした。


(はーあ、でもずっと解放区の外にいると【汚染】が進んじゃうからなー……どうしよっかな)


 物思いに沈みながら、髪に水を通していく。濡れた髪を指で梳きながら汚れを落とす。

 近くに滝があるお陰で、頭から水を浴びられるのはいいことだった。






 このとき、彼女はまだ気付いていなかった。


 偶然彼女が地上に出てきた場所が、人気の少ないエリアだったことも。

 彼女のいる場所の少し離れたところに骸骨が巡回しているせいで、周囲に魔物が少ないことも。


 水を得るために滝のそばで何日も何日も暮らしている《死霊使い》の男がいることも。


 ――滝のそばの岩場にいくつか設置された、ワイヤー式くくり罠に引っかかってしまったせいで、全裸で脱出できなくなってしまうことも。


 それらは誰も預かり知らないことであった。





 ――――――

 独り言:

 好きな性癖発表ドラゴン「全裸で脱出できないヒロイン」




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