第5話 世紀の大発見とは、教育勅語であった。

 森川一郎園長が話した「大発見」とは、以下の通りであった。


 東先生、昨晩は、お騒がせして、大変申し訳ありませんでした。

 せっかくですので、ぜひ改めて、私の話をお聞きいただきたい。

 わしが昨日発見した世紀の大発見というのは、実は、こういうことなのじゃ。


 東さん、あなた子どもの頃、事ある毎に、当時の先生方から聞かされたでしょう。それから師範学校でも。

 教員になられてこの方、今度はあなたのほうが、子どもらに教えておったはずです。ただし・・・、あの大東亜戦争の終るまでは。


 そう、教育勅語です。


 わしは、教育勅語を我が国における教育の基本とすべきであると考えております。

 もちろん、原文は御存知の通り明治時代に起案された文語体であるから、今の口語に訳して読みやすくすべきであるし、また、読むのは原文通りとするとしても、口語のしっかりした文章で改めて子どもらに読み聞かせるべきものではないか。


 そういう結論に至った次第であります。


 東先生におかれましては、世紀の大発見という割には、何ら大した話でないように聞こえるかもわかりません。

 ですが、山上先生が時折、子どもらや実習生の諸君に紙芝居を披露しておる作品中に、メーテルリンク作の「青い鳥」がありましょう。


 青い鳥は、自宅の鳥かごの中におった。

 幸せは目の前にある。

 それに気づくことが肝要である。


 そこから鑑みるに、教育勅語という世にも素晴らしい教えを、先人が、この日本という国に遺してくださっておるのでありますところ、古いからと言って郷愁とともに唾棄するのではなく、新たに口語としてきちんとした文章に直して、それを子どもたちに読み聞かせ、大人である我々も、その言わんとするところを改めて再認識し、それを日々の暮らしに活かしていかねばならぬのではありませんか。

 そうなりますれば、わし一人やそこらがわめき倒したところで、賛同者も出やせんですわな。


 そこで、志を同じくする者を募って、「教育勅語普及国民運動」を興して大きく世に広める活動をして参りたいと、わしは思いついた次第であります。

 東先生におかれては、今は公立小学校の教師を退任しておられるのであるから、別段教育行政にお伺いを立ててどうこうすることでも、ありますまい。


 是非、この「教育勅語普及国民運動」に、賛同していただきたいのであります。

 おいかが、でしょうか、な?

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