第8話 若き一日本人教師のエピソード
「ところで東さん、あんた、今どきの教職員組合もそうじゃが、教育勅語をぜひ活用すべきであるとの御意見をお持ちの先生は、今どき、おられんものですかな?」
老園長は、何か自身にとって良い情報はないものか探るような質問をする。
終戦からもはや四半世紀が過ぎようとしている今日日、あの日以降に生まれた両親のもとに生まれた子どもさえも生まれ始めている今日この頃。
教育勅語を生活の軸としていた時代は、もはや、遠い昔の話となり果ててしまったのであろうか。そんなことを思いつつ、老園長は、定年をすでに越した元小学校長に尋ねたのである。
私が教頭で赴任した学校に、組合をむしろ毛嫌いしておって、日本精神の復活、教育勅語を教育の原点にと、そのような主張をかねてなさっていた先生がおりますな。
私ほどの年配の方ではなく、むしろ昭和生まれの若い熱血先生でしたが、まあお元気で、加えて優秀な先生ですから。
この先生も、児童や保護者の人気はありました。
そろそろ、教頭になる頃ではないですかね。いずれは校長になるなり、教育委員会の役職にも就くくらいにはなりましょう。
彼を見ておりまして、私も若い頃はあんな調子だったかなと、いささか、懐かしささえ覚えたほどです。もっとも私のほうは、その先生と違いまして、児童や生徒の人気のほうは、大いに心もとないものでしたが(苦笑)。
何と申しても彼の美点は、その主張内容はともかく、組合系の教員といさかいを起こすわけでもなく、また、私らが教員成立ての頃のような教条的な言動もせず、むしろ、戦前の教育の良い面をうまく現在の現場に当てはめて、子どもらを導く姿勢が終始一貫しておったことです。
東氏の元同僚教諭のエピソードを聞かされたからか、森川氏の不興を買っているかのような表情は、いささかならず和らいだ。
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