第10話 老園長のぼやき
森川園長は、さらに話を続ける。
東副園長もまた、湯吞に残った茶をすべて、飲み干した。
先生も御存知か知らんが、昭和23年の夏には園児の実質放火で火事を起こして、その後なんか、もう、オオゴトでした。
女学校上がりの山上先生、旧制の新橋さんじゃが、あの娘さんなんか、20歳になるかならんかのうちで、もう、必死で頑張ってくれよった。
ぐずる子どもを何とかなだめすかして、あやして、なぁ・・・。
わしらの世界は、当時も今も、園長のイニシアチブと申すのか、まあその、トップとして機敏に決定をしていかねばならん要素を持っておりますからな。
それにここは、わしら職員はええとしても、子どもらにとっては「家」なのです。
家族とともに暮らせるのとできるだけ同じような、そんな幸せの一端でも与えてやることで、これから世に出てうまくやって行けるように。できるなら、共に暮らせる相手を見つけて、子どもを迎えて。
生まれねば、養子をいただいてもよいではないか。
そうして、親子そろって家族みんなで仲良く過ごしていける、そんな「家庭」を築いていける一助を、わしらはしてやらねばならんのですからな。
単に勉強教えて適当に遊ばせて、学級経営だの学校経営だのと銘打っては見ても、しょせんはその延長でぼちぼちやっていけばエエ、ってものではまったくない。
そういう仕事ですけど、その分、やりがいというのも、ありますわな。
老園長は、元小学校長である東副園長に対する愚痴とも自らの仕事に対するボヤキともつかぬことを語った。不快な表情は消え、話しぶりもまた、いつもの穏やかな調子になっていた。
昨夜の熱狂的な弁は、すでに鳴りを潜めている。
園長室の時計の針は、すでに10時をいくらか回っている。
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