第17話 丸眼鏡の好々爺の説諭

 老園長は、気を取り直して、大槻児童指導員に述べている。


 そうか。この問題については、大槻君も東先生とほぼ同意見のようであるな。

 さて、君と東さんは、根本的なところで相容れ合わぬものがあることも、わしの予想通りであった。

 わしの本音としては、正直来年かそこらあたりからでも、大槻君に園長職を譲って引退したいとさえ思っておる。

 もっともわしは、後は野となれ山となれでエエかもしれんが、君の将来を考えるにあたっては、それは時期尚早であろう。東先生だけでなくして、山上先生のようなベテランで年長の保母さんもおるからな。あと、事務の玉柏さんとか。

 もう10年ほど、子育てしながら、いろいろ学ぶことじゃ。

 それからでも、園長になるのは遅くなかろう。

 もっともその頃には、わしも死んでおろうが。

 それまでは、年配の職員各位から学ぶ姿勢を忘れずに勤めなさい。

 君が東さんや山上さんに思うところは、わしもよくわかっておる。

 じゃが、いずれわしの地位に至ったとき、君があの人らを見て学んできたことは、必ず、生きてくる。

 いわゆる「反面教師」ということになる部分も相当あるとは思うが、それで学んだことはすべて、いずれこの地に来る子どもらや職員各位にとっても、何かの役に立つ材料となるであろう。

 そのときのために、これから、しっかり精進されたい。


 ところで、大槻君は、東さんや山上さんのあら捜しばかりしておるのではなく、よい面もきちんと見ておるな。

 批判精神も大いにあるが、東先生とはかなり違いはあるものの、物事に対するバランス感覚も、きちんと持合わせておる。

 それは素晴らしき美点であるから、その良さを、この地でもっと活かしてくれるとありがたい。

 遠い将来、大槻和男君という人材を見出せたことが・・・、じゃな、


 少し間をおいて、老園長は若者に告げた。


大槻君、あんたを見出したことこそが、わしの「世紀の大発見」と語られる日が来るかもしれんのう(苦笑)。


 大槻指導員は、いささか面喰った表情で、老園長を見た。

 丸眼鏡をかけている老園長のその顔は、まさに好々爺そのものであった。


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