第13話 東航先生は、確かに、立派な方です。

 

「しかしながら? どうなのじゃ? 遠慮せず、忌憚なく、述べられたい」


 少し間を置いたところで、老園長が合の手を入れる。

 かの青年の言葉の後に続くものを、この老園長、是非とも引出しておきたいと思っている。

 日々のこの青年の言動からみて、その部分がいずれどこかでこのよつ葉園に関わる問題を引起こしはしないだろうか。

 そんな懸念を、森川園長はかねて抱いていた。

 幼少期からかわいがっていた嘱託医の息子の大宮哲郎氏ほど、この大槻青年は学力的な面での能力は飛び抜けて高くはなく、バランスの良い思考というものとはいささか異なる思考回路を持っている。

 しかし彼には、物事を的確かつ迅速に、しかも力強く処理していく行動力に長けている。それこそが、彼の最大の持ち味なのだから。

 とはいえ、それは両刃のつるぎとなりかねない要素をはらんでいるだけに、一歩間違えたあかつきには、とんだ方向に進みかねない。

 そんなリスクをいかに減らし、彼の良さを引き出していったものか・・・。


 森川園長は、私立関西中学(旧制)を卒業後、代用教員をしたり大阪の外資系の会社に勤めたりした後、岡山県庁に入庁し、保育や福祉分野の部署に勤めつつ、故郷である香登村(現備前市)の若者の学ぶ場を設け、そこに有為な青年を呼んで勉学に励ませていた。

 彼は単に保育や福祉で接する子どもたちだけでなく、世に出て立派にやっていける素養を持った若者をきちんと導くだけの力もまた、持ち合わせている。

 そんな人物であることを知る大槻青年は、少しばかりの恐怖感を抱きつつも、思うところをしっかりと、自らの感情を高ぶらせることなく、静かに述べ始めた。


 東航先生は、確かにいい人です。だからと言って、いい人、いい人と持ち上げた挙句に「どうでもいい人」などと言って見せるような、くだらない駄洒落を述べるつもりはありません。真面目な話、いい人どころか、立派な方でさえあります。

 息子さんお二人ともすでに結婚されていて、昨年にはお孫さんも生まれたとお聞きしておりますが、日頃このよつ葉園という「職場」での、いかにも校長先生といった感じの威厳のある顔とはまた違ったお顔を、お孫さんには見せられているのかなと。

 今年中には私にも子どもができることがわかった今、そんなことも思うようになってきました。

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