世紀の大発見!? 後編

第12話 しかしながら、・・・

トントントン


「園長先生、失礼いたします」

「大槻君じゃな、よろしい。お入りなさい」


 今度は、25歳になったばかりの児童指導員が入室してきた。森川園長は、園長室のソファの向かい側に彼を座らせた。

 そこは先ほどまで、東副園長が座っていた場所である。


「さて、大槻君。いよいよこれから、3年目となるね。あれだけしっかりとした決意を述べて迎えた最初の年度が始まったわけでもあるが、おいかがかな、この仕事?」

 老園長は、静かに尋ねた。

 この年3月で就職2年目を迎えたこの若者、ここで一念発起して事業を興そうと準備にいそしんできていた。しかし、老園長はじめ知人らからの説得によって、引続きこのよつ葉園で児童指導員として勤務することとなった。

 そして、それまで交際していた元児童指導員の女性と結婚し、子どもも今年中には生まれるという状況になっている。

 若き児童指導員は、シャキシャキと答えていく。


 ええ、自分のやるべきことがしっかりと見えて参りましたから、それに向けて、前を向いて進んでいくのみであります。

 今のこの世界、このよつ葉園の問題点をしっかりと見出して、今の自分にできることから一つ一つ変えて行くことですね。

 それこそが、私の一生の仕事になるのではないかと思われます。


 このように文字にして表現していると、ここはいかにも意気軒昂となっているようにも思えるが、この若き職員の口調は、それほど高揚しているわけでもない。

 むしろ、淡々とさえしている。


「それは大いに結構。少なくとも今年中には子どもも生まれてくることであるし、無茶はできんのう。この仕事は、自分で稼いで大きく打って出られる性質の仕事ではないが、じっくり腰を据えて日々を送っていけば、必ず、道は開けるからな。ところで君は、東先生について、どんなふうに思っておられるかな?」

 老園長の激励に加えての質問に、大槻青年は答える。


 東先生は、このよつ葉園という「職場」で起こっている物事をバランスよく処理するのに長けておられる方です。

 さすがに、小学校で校長先生をされていただけのことはありますね。

 確かに、日々変わりなく淡々と業務を進めていくという点に関しては、私も見習うべきところは多々あります。

 どんな場所でも、のべつ事件や騒動ばかりが起きているわけでもありませんので、平時の対応はもちろん大切ですからね。


 しかしながら、・・・

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