世紀の大発見!? 前編
第2話 世紀の大発見がなされた、らしい・・・
「おお、東先生、夜分に申し訳ない。お休みのところ、重ね重ね、申し訳ない」
電話の相手は、彼をよつ葉園に招いた人物。よつ葉園の園長・森川一郎氏。
「どうなさいましたか、森川先生」
平静を装って、東氏は尋ねた。
「いやあ、東先生、わしはたった今、世紀の大発見をいたしました!」
電話の向こうの老紳士の異様に興奮している姿が、手に取るようにわかる。そしてさらに、電話口の主は述べる。緊急の案件というには、ちょっと違う風向きがする。
「それでですな、東さん、申し訳ないが、その、せいきの、だいはっけん、その内容を是非ともあなたにお伝えしたい。何でしたら、今からでもうちにお越し願えんですかな?」
さすがにそれは、ちょっと・・・。ここは、街中の飲み屋街ではないぞ。
そんなことを思うものの、東氏は、穏やかに返答した。
「園長先生、申し訳ありませんが、今かれこれ取込み中でして。しかもこの夜中では、出ていくには何分にも危ないですし、そちらまで自転車で20分はかかるでしょうから、申し訳ありませんが、明日の朝礼後にでも、園でお話しくださいませんか」
電話口の対手、さすがにこれはまずかったと思ったのか、言葉を失っている模様。
幸い、明日も平日である。明日の朝でも、間に合う話であろう。
そんなことを東氏が思っているうちに、老園長が言葉を発した。
「いやあ、東先生、夜分に相済まなんだ。明日、朝礼の後にでも、ぜひ、お時間いただけませんかな。この世紀の大発見、お伝えせずにはおれませんで、な」
幾分平静を取り戻した老紳士は、重ね重ねわびた上で、受話器を置いた。
・・・ ・・・ ・・・・・・・
受話器を置いた東氏は、取込み中の仕事を片付けた。先程のこともあったので、寝酒として置いているウイスキーを幾分多めにあおり、水を飲んで、寝床に着いた。
ボーン ボーン ボーン ・・・ ・・・ ・・・
東邸の灯りは、数分前に消されている。
自宅の振子時計が、12回、時を告げる音を鳴らした。
時計の針は、短針長針ともに、12の文字を下から突き上げる位置に来ている。
だがそれを見る家人は、もう誰もいない。春の夜は、静かに、暗闇を保っている。
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