第35話 若気の至り
「はぁー……」
僕と華狩の、二人きりでの帰宅途中。駅から闇咲宅へ向かっているところ。
黄泉子も一緒に住みたいと言い始めたことを伝えたら、華狩は大きな大きな溜息を吐いた。
「悪い。当初の予定と全然話が変わってる」
「……いいけどね。夜謳はそういう人だよ。周りに集まるの、そういう人たちだよ。でも、夜謳としては嬉しいんじゃないの? 夢のハーレム生活だねー」
「ごく一般的な意味で愛でられる日々なら大歓迎だけどね。付随するハードな部分を考えると、手放しで喜べることでもない、かな」
「……夜謳ってさ、やっぱり、痛いのは嫌なんだよね?」
「大歓迎ではないけど、ある種の快感がないこともない」
「快感って……」
「僕はもはやマゾ。だから、華狩は心配しなくていいよ」
「……そう。まぁ、そのおかげで、私は夜謳と一緒にいられるんだよね。夜謳が、痛いのも死ぬのも嫌だって思う人だったら、私は死ぬしかなかった……」
「そうそう。僕がちょっとおかしくなってることが、人を救う力になっているのだよ」
華狩が悩ましげに僕を見つめる。握られた手にも力が入る。
本当に僕は大丈夫なのかと、探るようでもあった。
「僕は大丈夫。闇咲さんや鳳仙花さんとも定期的に面談はしてるけど、今の過ごし方を変えるべきとも言われてない。いい具合の壊れ方してるんだよ、僕は」
「……もし、辛かったら言って。無痛薬飲ませる。そもそも、なんで普段から飲まないの?」
「それなりに高価だし、僕が苦しんでる顔を見るのが好きっていう人の相手を続けてたら、なんか感覚バグって、無痛薬なくてもだいたい平気になった。あと、無痛薬って一回死んだらリセットされるから、何度も死ぬときには上手く機能しない」
「そう……。この話は、あまり掘り下げても仕方ないんだね」
「だねー」
「……たださ。夜謳をずっと苦しめ続ける代わりに、私、夜謳にたくさん幸せを感じさせてあげたいって思ってる」
「おう。ありがとう。期待してる」
「……私が一番、夜謳を幸せにできるようになりたいなぁ」
「華狩、いつの間にそんなに僕のこと好きになったの?」
「わかんない。気づいたら、私の一番は夜謳だった」
「まだそんなに付き合いも長くないのにな」
「うん……。私もちょっと不思議。でも、心底好きになれる相手を見つけたら、こんなものなのかもしれない」
話しているうちに、闇咲宅に到着。まだ闇咲も鳳仙花さんも帰っていなかった。
他人の家だけど、二人きりの時間。
僕と華狩の部屋は別々なので、二階の廊下で一旦別れようとしたら。
「……ねぇ、夜謳。これから先、二人きりの時間って、少なくなっていくばっかりだと思うんだ」
「……うん。そうだね」
「だから、二人きりでいられる時間は、なるべく夜謳と深く繋がっていたいな」
俯き加減だが、視線は僕をうかがように見据えている。顔は赤く色づいていて、その言葉が何を意味しているのかは、すぐにわかった。
「……とりあえず、シャワーでも浴びる?」
「……そうだね」
「お先にどーぞ」
「……むしろ、一緒に入っちゃう、とか?」
「……僕は、構わないよ」
男として、そんな美味しい誘いを断る理由などあるわけない。
自分で誘っておいて、心底恥ずかしそうにしている華狩の姿にも、高揚を禁じ得ない。
鞄を部屋に置いたら、二人連れだっていそいそと浴室へ。
僕はさっさと制服を脱ぎ捨てるのだけれど、華狩は少々ためらった。
「さ、先に行ってて」
「……ん。わかった」
お互いに裸を晒すのは初めてではないのに、いつもと勝手が違うと恥ずかしいらしい。
無理矢理脱がせる趣味もないので、僕は先に浴室内に入ってシャワーを浴びる。
数分後、タオルで体を隠した華狩も入ってきた。要所だけは隠し、それ以外の瑞々しい肌が露出した姿は、否応なしに下半身の血行を良くしてしまう。
「恥ずかしいなら、誘わなきゃ良かったのに」
「……だって、なるべく一緒にいたいって、思っちゃったんだもん」
「そっかそっか。それは光栄だ」
あまりにも可愛いので、思わず正面から抱きしめた。すべすべで柔らかな肌と、女の子らしい甘い香り。汗をかいている感じがしなくて、シャワーなんて浴びなくても良かったんじゃなかろうかと思ってしまう。
「ちょ、ちょっと、当たってるんだけど!」
「華狩が可愛すぎるから仕方ない」
「……もう。へんたい」
「僕を誘ってきた華狩がそれを言う?」
「う、うるさいっ。私はただ、少しでも長く夜謳と一緒にいたいだけっ」
「そういうことにしておいてあげよう」
「しておいてあげるじゃなくて、それだけだから!」
「ふぅん?」
ちょっと意地悪して、華狩の下半身にも少しだけ触れてみる。少々滑りが良くなっていた。
「ふぅん? 一緒にいたいだけ、ねぇ」
「や、そ、それは、だから……」
「ここで、しちゃう?」
「……できないでしょ。ちゃんと持ってきてるの?」
「華狩が持って来てるんじゃないの?」
華狩が言葉に詰まる。
冗談半分だったけど、本当に持ってきているっぽい。
「……持ってる、よ」
「準備いいね」
「ち、違うから! 夜謳がしたくなっちゃったときのためだから! 私がしたかったとかじゃなくて!」
「そっかそっか。僕のためにありがとう、華狩」
「……全部、夜謳のためなんだから」
雰囲気はツンデレだけど、中身はただのデレデレだよね。こういうの、好きだよ。
「なら、僕のために色々考えてくれる華狩のために、頑張らないとな。まずは体を洗ってあげよう!」
「あひゃっ!? ちょっとぉ!?」
華狩にシャワーを浴びせつつ、体をこしょこしょと撫で回す。
くすぐったそうにしている華狩がタオルを落とし、綺麗な裸体が露わになった。
引き締まった肢体に、程良く大きな胸。ピンと張った先端は、芸術的だとさえ思った。
「華狩はやっぱり綺麗だねぇ」
「うー……」
唸りはするが、見るなとは言ってこない。心を許してもらえてる感じが良いね。
その後も、若干の抵抗を受けつつ、華狩の体を隅々まで洗ってやった。
だんだん状況に慣れてきたか、諦めがついたか、お返しとばかりに華狩も僕の体を洗った。
お互いに綺麗になったところで、華狩の準備したものを装着。
ベッドではないから、いつもと勝手が違い少々手間取った。
それでも、イチャラブな雰囲気を保ちつつ……僕たちは繋がった。
狭い浴室に響く華狩の声。若気の至りは、これからも何度も繰り返したいね
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