第14話 二人
男と半ば強制的な二人暮らしをすることになり、さらにベッドは一つ。
女の子としては、問題だよね。
「部屋の広さからすると、ベッドは二つも置けないし、サイズもシングルがいいかな。けど、ベッドは一つだとして、僕は布団一式買って、床で寝たって構わないよ」
「あ、そ、そう? そっか。でも……その……お金もかかっちゃうし、もったいない、よね?」
「お金に関しては心配しなくて良いよ。僕、これで結構お金持ちで、貯金は一千万以上ある」
「そ、そんなにあるの?」
「うん。ほら、医療関係で人体実験にも協力してるって言ったろ? あれは特にお金になるんだよね」
「そっか……。お金にはなるけど、人体実験なんて、やっぱり辛いでしょ……?」
「いや、たいしたことないよ。色々配慮してくれるし、本当にヤバい奴では麻酔とかを使うから、ぼうっとしてたら終わっちゃう感じ。たまーに薬が変なところで切れて、ちょびっと痛かったり気持ち悪かったりするけど、辛さとしては些細なもんだよ」
はっはっはー、と笑ってみると、月姫は複雑そうに顔をしかめた。
「……やっぱりベッドは一つで良いよ。そのお金は黒咬君のものだから、私のためにばかり使わないでいい。机と椅子も、今はいいや」
「そう? 遠慮しないでいいのに」
「これからは私も闇咲さんに仕事紹介してもらうし、自分でお金を稼いで、そのお金で欲しいものを買うよ。生活費についても、当面は黒咬君に出して貰っちゃうけど、ちゃんと返すよ」
「そっか。了解」
僕としては、月姫にいくら使った、と細かく計算していくつもりはなかった。見返りを求めるつもりもなかった。
それでも、月姫が気に病むなら、月姫の思う通りにさせよう。
「ちなみに、結局月姫はどんな仕事をする予定なの?」
「今のところ、私の仕事は、まずはダンジョン産の呪具を破壊することだね」
「呪具の破壊?」
「うん。私、呪いに対する耐性が強いらしくて、並の呪具なら簡単に破壊できるみたいなの。普通、呪具の破壊は聖職者のジョブを持つ人がやるんだけど、私がやる方が早いんだって」
「へぇ、それはまた変わったお仕事だね。……破壊って、こう、力任せにやる感じ? えいや、っと?」
「……うん。そう」
「呪具って、持つと無性に人を殺したくなる短剣とかあるよね? 全部力業で破壊?」
「……そうだけど、何か?」
月姫、ちょっと恥ずかしそう。こういうときは、あえて言ってしまいたい。
「……ナイス、剛力! 月姫さんを前にしたら、ボディービルダーも裸足で逃げ出しちゃうね!」
「もう! 黒咬君はそういうこと言うと思った! 普通の女の子の腕力じゃないけど、そんな言い方しなくてもいいじゃない!」
「いやぁ、腕力すごい系女子、良いと思うよ? ほら、鳳仙花さんだって、殴っただけでも鉄骨へし折れるからさ?」
「……今、他の女性の話しなくてもいいじゃん」
「……あれ? なんでそんな嫉妬発言?」
「な、何でもない! 鳳仙花さん、すごいよね! 美人で強くて少しおちゃめで、男の子からするとすごく魅力的じゃないかな!?」
「うん、まぁ」
「……黒咬君は、どうして鳳仙花さんと付き合わないの? 仲良いのに。年の差が気になる、とか?」
「いやいや、年の差なんて気にしてないよ。僕は僕を殺せる人以外と付き合うつもりはないっていうだけ」
「……変な基準」
「まぁねぇ。でも、僕って客観的に見るとすごく歪んでる部分もあるからさ。鳳仙花さんくらい真っ当な人は、僕なんか選ぶべきじゃないと思っちゃうんだよ」
「ふぅん……。その基準でいくと、私は黒咬君を食べて殺してるから恋愛対象内で、私自身も歪んでるってこと?」
「月姫さんは特殊だからなぁ。恋愛対象だけど、歪んではいない、かな?」
「……黒咬君のこと、美味しくいただいちゃってるよ? なんなら、実は毎日ちょっとずつでも齧りたいとも思っちゃってるよ? たまに黒咬君以外の人もご飯に見えるよ? 十分歪んでるんじゃない?」
「……そう、かもね」
月姫は何を思うのか、悟ったようにも見える微笑みを浮かべている。
「……変な基準って言ったけど、私、黒咬君の感じてること、わかる気がする。私も、もう真っ当な人とは恋愛できないし、生涯のパートナーにすることも考えられない」
「そう? なら、やっぱり僕と結婚する?」
「……私、一途な人じゃないと嫌」
「そっかー。それなら仕方ない」
「……黒咬君は色んな子と仲良くしてるみたいだけど、誰か一人を選ぶって選択肢はないの?」
「んー、ないな。放っておけないんだよね、皆」
「……その優しさは、女の子からするとちょっと残酷」
「だよねー。お陰様で、会う度に皆から殺されるんだよ」
「……黒咬君の見ている世界は、本当に異質だね」
「うん。そうなんだ」
「……でも、だからこそ、他の誰にもない優しさを持ってるんだろうね」
月姫は何かを諦めるように溜息を吐いて。
「ねぇ、今夜は私と寝ようよ。二人暮らしの予行演習として、さ」
そんな誘いを口にした。
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