第8話 獅子兄弟

(ダメだ! 気を引き締めないと!)


 ティオ・ファリスは、心の中で深呼吸をし、跪いた。


「すいません、俺が不注意でした。お怪我はありませんでしたか?」


「うん、ぼくこそごめんなさーいっ。お兄ちゃんしか見えていなかったからー」


(お兄ちゃん?)


 ティオが疑問に思っていると、


「アルタ」


 ティオの背後にアラガド・バローグがやってきて、子供の獅子獣人を呼んだ。


「あ、お兄ちゃん!」


 名前を呼ばれた子供の獅子獣人は、アラガドを見上げ、目を輝かせた。


(この人が、王がお兄ちゃん!?)


 ティオは驚きつつ振り返り、


「あの……」


 アラガドに声をかけた。


「ああ、すまない。この子はアルタ・バローグ。まぁ、気づいているだろうが、俺の弟だ」


(やっぱり!)


「アルタ、いつも言っているだろう。公の場では、俺のことは王と呼べと」


「でもー」


 アルタの耳と尻尾が、


「でもじゃない」


「だってー」


 寂しそうに下がっていった。


「だってでもない」


「はいはーい」


「返事は一回」


「はーい」


「ふふっ」


 二人のやり取りにティオは思わず笑みをこぼした。


「あ、すいません。仲がよいのですね」


「まぁ、悪くはないと思うが」


「そうだ! お兄ちゃん!」


「だから、王と呼べと……」


「この人だーれ!? 何で人間さんがいるのー!? 人間さんはみんな死んじゃったって聞いたよー!?」


 アルタの好奇心が爆発した。耳はピンと立ち、尻尾は嬉しそうに揺れる。


「質問は一気にしない! ゆっくり聞きなさい!」


「じゃあ、この人だーれ!?」


「この人は、俺の専属騎士だ。つい最近、募集していただろう」


「何で人間さんがいるの!?」


「その人間さんが、俺の騎士だからだ」


「人間さんはみんな死んじゃったって聞いたよ!?」


「俺も、そう思っていた……。だから——」


 アラガドは跪き、ティオに目線を合わした。


「生きていてくれて、ありがとう。……俺が言うのも可笑しいが」


「…………」


 そして、寂しげに笑った。その笑顔に、嘘は見えず、心の底から思っているのだとわかり、ティオは複雑な気持ちになった。


「あとねー、何でお——」


「質問時間は終わり!」


「えー!」


 だが、気まずい空気も、


「ふふっ」


 アルタがすぐに消してくれたのだった。

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