第14話 協定国③熊国ベール

 勢いよく扉を開けて、謁見室の中に入ってきたのは、獅子王アラガド・バローグと同じくらいの身長の熊国ベールの国王、ラパス・ベールだった。


 密に生えた黒茶色な毛並みに、短い尻尾、太くて短い四肢と大きな体を持ち、耳介じかいは小型で丸みを帯びている。長く湾曲した出し入れできない鉤爪があり、殺傷能力の高さを表したような手足をしている。


 その見た目とから、ティオはさらに壁際に寄り、距離を取った。


(試合の時は忘れていたけれど! 熊の獣人は嗅覚が発達していると聞いていた! 犬の獣人の七倍だって! だから! 近づかれて匂いを嗅がれたら! 性別がバレてしまうかもしれない!)


 熊の獣人は視覚や聴覚は特に優れてはいないが、嗅覚が発達していた。中には、匂いで感情が読み取れるほどの者もいる。それ故に、ティオは距離を取ったのだ。


「あー?」


 ラパスはティオにずんずんと近づくと、目を見開き見下ろした。


「おい! ウルドス! てめぇ! こんなヒョロイのに負けたのか!?」


(ウルドス?)


 聞き覚えのある名前にティオが反応すると、いつぞやの革鎧を着た灰色熊グリズリー獣人が気まずそうに入ってきた。


(あの時の対戦相手!)


 ティオはすぐに、試合相手だとわかった。


「ええ、まぁ、すいません……」


「本当に! 情けねぇなぁ! このクズ!」


「すいません……」


 ラパスに暴言を吐かれ、ウルドス・ザハークは肩を窄めた。


「大体よぉ! どうしたらこんなヒョロいのに負けんだぁ!? こんな女みたいな! ……女? そうだてめぇ、まさか」


 ラパスはティオにさらに近づこうとし、


(ダメだ! 匂いを嗅がれる!)


 ティオの背はもう壁だったので、彼女は観念しぎゅっと目を瞑った。だが、


「ラパス、俺の騎士を怯えさすのはやめてもらおうか」


 二人の間にアラガドが入ることにより、ティオは難を逃れた。


(よかった、危なかった……)


 ティオが安堵しながらアラガドの背中を見上げると、


「おーおーおー! 獅子王様は優しいねぇー! 優しいどころか、過保護じゃねぇか!? ギャハハ!」


 ラパスは馬鹿にしたように笑った。だが、そんな嘲笑にもアラガドは感化されず、ふっと笑った。


「お前のように、部下をクズ呼ばわりする最低な王よりは、何倍もマシだろう」


「なっ……」


(確かに……)


 ラパスが怒りで顔を赤くし、ティオが仕えるのがアラガドでよかったと思っていると、


「フォーッフォーックフォク。仲良きことは良きこと。ではありませんかー、ラパス殿」


 鼻につくような甲高い声が聞こえてきた。

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