第15話 協定国④狐国ハポーザ

 熊国ベールの猛者、ウルドス・ザハークの後に入ってきたのは、狐国ハポーザの国王、ソロ・ハポーザだった。


 赤味を帯びた褐色の毛並みに、黒い耳の先端と足、フサフサした尻尾の先端の白色が目立つ。瞳は金色で猫獣人のように縦に裂けている。


「仲良きことは良きこと。ですが、アラガド殿?」


 ソロはフサフサな尻尾を揺らしながら、優雅に歩き獅子国レアルトの国王アラガド・バローグに近づいた。


「何だ」


「そんなにすぐに信用してよいのですか? 人間を」


「何故だ」


「だって!」


 ソロは目をかっと開き、


「本当に有害や菌を体内に持っていたらどうするのです!? それが広まり我々が全滅したら! もしくは! 人間が蘇生魔法を使え! アンデッドとして我々獣人を襲ってきたら! あぁー! 考えただけで恐ろしい!」


 早口でまくし立てると、ぶるぶるっと身震いし、両腕を摩った。


(狐の獣人って、臆病なんだな……)


 ティオの中では、童話などのイメージから、狐獣人はずる賢いと思っていた。だが、そんな様子は見られなかった。


「ああー、アラガド殿のせいでっ、余計なことを考えてしまったから、胃がキリキリしてきたではありませんか! 胃薬は?」


「ない」


「何と! ああー! それを聞いたらさらに胃がー!」


 ソロは腹部を押さえてうずくまった。


「…………」


 狐獣人は、ティオが思っていた以上に、臆病でストレスに弱かった。


「後で用意させる。少し我慢しろ」


「今すぐに! 今すぐにワタクシは欲しいのです!」


「無理だ。もうすぐ皆が集まる」


「では、ワタクシ抜きで始めてくだされ!」


「参加しないと、抑制剤は配られないぞ」


「何という不幸の連鎖! 従者を連れてくるべきでした! あぁー! だが我が従者もワタクシと同じく! 今日の日と人間に気を許し関わったことで起きる事を考えたら! 胃炎になり入院していたのでした!」


 ソロは古い歌劇のように、手を高く天に向けながら、反対の手で胸を押さえ、「よよよ」と、崩れ落ちていった。


「お前と、お前の従者。……いや、お前の国は大丈夫か?」


 アラガドが呆れながら尋ねると、


「……いつからここは劇場になったんだ」


 冷静で低い、クールな声が聞こえてきた。

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