第6話 人間と獣人

(しまった! もうバレた!)


 ティオ・ファリスは裸を見られたことよりも、性別がバレた事に焦りを感じた。


(どうするっ……、この国の騎士団は女人禁制だ。ここで追い出されたら、折角のチャンスを逃すことになる!)


 ティオは考え、閃いた。


(そうだ。今は女であることを武器にしよう!)


 そう決めて、ティオは獅子王アラガド・バローグに近づき、


「なっ……」


「ねーえ? 王様」


 体を密着させ、誘惑した。


「なっ……」


 柔らかい肌が直に触れ、アラガドはたじろぎ、さらに赤面した。白い毛並みのせいか、赤がきれいに映える。


「黙っていてくれますよねー? 私が女であること」


「そっ……」


 わざと胸を押しつけ、瞳を潤ませ見上げながら、猫なで声でティオは続ける。


「獅子王様とあろう方が、騎士が女だからって告げ口しないですよねー? 獣人世界は弱肉強食なんですからー」


「はっ……、恥ずかしくないのか!」


 アラガドはようやく、言葉らしい言葉を発した。


「何がですー? 裸でいることですかー?」


「裸以前の問題だ! そっんな! む、胸のと、突起とか! 毛皮で覆われていない丸出しの格好で!」


「……人間はみんなこうですよ」


 ティオは急に冷めた声になった。


「それに、女とか男とか、人間とか獣人とか、もう、どうでもいいんですよ。私以外の人間みんな、獣人に惨殺されたんですから」


 ティオは敢えて、“獅子の”とは言わなかった。彼女のささやかな口撃だった。


「…………」


 アラガドの紅潮していた頬は、僅かに色が戻った。


「どうしますか? 追い出しますか? それとも、女だと皆に言いふらし、晒し者にしますか?」


「……いや、お前も言っていた通り、俺たちの世界は弱肉強食だ。それは性別は関係ない、俺の専属騎士は、お前だ」


「そうですか」


 温度のない声でそう言うと、ティオはアラガドから体を離し、大浴場を後にしようとした。


「最後に教えてくれ。男装してまで俺の騎士になろうとした訳は何だ」


「…………」


 ティオは少し振り返り、


「生きるためですよ。祖国は滅んだ、私以外は獣人。ならば、獣人の生活に馴染み、お金を稼ぐしか、生きる方法はなかった。それだけです」


 心ない声で言った。


「…………」


 ティオは、嘘はついていなかった。


 大好きな優しい人たちは死に、国は滅んだ。帰る場所は、なくなった。


 ならば、獣人世界に染まり、強者で生き残るしかなかった。それには、アラガドの専属騎士は、絶好の適職だった。


 ティオは、嘘は、吐いていなかった。


 “あなたを討つためです”という言葉を、飲み込んだこと以外は。

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