第7話 心と体は乙女

 ティオ・ファリスは脱衣所に戻ってくると、


「——」


 顔を両手で覆いしゃがみ込んだ。


(裸を見られた! 全部!)


 顔から全身へと熱が広がっていく。平然を装い、体を使いアラガド・バローグを誘惑したが、心は年頃の少女。


(裸を見せていいのはっ、添い遂げると決めた人だけだって! お父さんに言われていたのに!)


 脱衣所に戻ってきた事により、体も頭も冷え、恥ずかしさが急に襲ってきた。


(でも、ま。好きな人なんて、恋人なんて作る余裕なかったしね)


 ディーネ国の王女だった頃のティオは、明るく聡明で国民から愛されていた。行動力と決断力もあり、両親である王や王妃が多忙の時は、代わりに執務をこなしていた。


(もう、恋人なんて作れないだろうし、作らないから、いいのか、別に。獣人が私を好きになるわけないしね。有害菌な人間なんだから)


 ティオは自嘲げに、でも寂しそうに笑うと、大浴場を後にした。










 翌朝。王の間、謁見室。


「……昨日は失礼した」


 ティオが扉を開けて中に入ると、アラガドは待ち構えていたように立っていて、深々と頭を下げた。


「いえ、私……、俺も何も言わずに入ったので、非は俺にあります。だから、気にしないでください」


「ありがたい」


「……王に一つお願いがあります」


「何だ」


「私が女だと知っても、男して、接してください」


「いや、しかし……」


「獣人は色々と敏感だと聞いています。きっと王の言動一つ一つの変化に気づき、私が女だと気づくかもしれません。だから、男して、扱ってください」


「……わかった」


「ありがとうございます。それでは、俺は剣の稽古のため、少し席を外します」


「ああ」


 ティオが背を向けると、


「お兄ちゃーん! わっぷ!」


 勢いよく走ってきた子供の獣人とぶつかった。


「これは失礼しました。お怪我はありませんか?」


 ティオが心配そうに見ると、


「人間さんだー!」


 薄茶毛皮をしている子供の獅子獣人は、キラキラした瞳で彼女を見つめ尻尾を揺らした。

 ティオは思わず、


(か、可愛いっ……)


 頬を緩ませた。



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