第12話 協定国①犬国カーネロ

 あれから数時間後。


 獅子国、レアルト王城の大広間にて、国王アラガド・バローグと、彼の専属騎士ティオ・ファリスは各国の代表が集まるのを待っていた。


 まず、一番目に、やってきたのは、


「アラガド様、お久しぶりです。お元気そうで何よりです」


 犬国カーネロの国王、獣人フェル・カーネロだった。逞しい体つきに、黄金に輝く毛並みを持ち、垂れ下がった耳をしていて、温和で愛情深い。人間にも友好的である、非常に外交向けな犬種だ。


「ああ、フェルも息災で何よりだ」


 アラガドは笑みを向けると、フェルも笑みを返した。そして、隣に立つティオに目を向けた。


「あなたが噂の専属騎士さんですね。初めまして僕はフェル・カーネロ、国王をしている者です。よろしくお願いします」


 穏やかに柔らかく笑うと、フェルはティオに手を差し出した。


「…………」


 ティオは、その手をじっと見つめてしまった。


「ああ、失礼。獣人の手は少し恐ろしかったでしょうか?」


 悲しそうにフェルの尻尾が下がった。


「い、いいえ! お会いできて光栄です! よろしくお願いします!」


 ティオは慌ててフェルの手を握った。彼女が大好きで触りたかったもふもふで、


(肉球だー! ぷにっと、ぷにぷにしているのに弾力もあるー!)


 肉球の手に、大興奮した。


 それが顔に出てしまっていたのだろう。フェルはティオの顔を見ると、


「よかった、初対面で嫌われたらどうしよかと。獣人としても異性としても落ち込むところでした」


 ふふっと爽やかに笑った。


「いえ、そんな嫌うなんて——」


 ティオはフェルを見上げ、言葉が止まった。


「どうかしましたか? ……ああ」


 フェルは何かに気付き、ティオと握手を交わしていない左手で自分の耳を触った。


「いけませんね。紳士に対応しているつもりでも、これでは」


 フェルが手を離すと、耳は嬉しそうにパタパタ動いた。


「獣人のお恥ずかしい性です」


 フェルは少し頬を紅潮させ、照れくさそうに微笑んだ。


「——いいえ! かわっ……、感情を素直に表現できるのは、いいことだと思います!」


 ティオの力説に、フェルは一瞬、目を見開き、そして、目を細めた。


「やはり、僕の思っていた通りだ。人間は獣人にも友好的で優しい。もっと前から人口の多い我々獣人と、今日みたいな協定を結んで平穏に暮らしてくるべきだったんだ」


 嬉しそうに動いていた耳と揺れていた尻尾が力なく下がった。


「……ああ、それには俺にも同意だ」


「アラガド様の騎士さん」


「ティオと申します」


「ティオさん。僕は、この協定会合が開かれる度に、人間との協定を訴えてきました。ですが、大半は人間には敵対的で、賛成してくださる国は少なく、叶わなかった……。力不足で申し訳ありません……」


 フェルは深々と頭を下げた。


「あ、頭をお上げください! フェル様が悪いわけではないではありませんか!」


 ティオがそう言うと、フェルはゆっくり頭を上げ、申し訳なさそうに笑った。


「ティオさんは、お優しいですね。アラガド様は良い騎士をお選びになられた」


「そうだろう。だから、俺もフェルの意見には賛成したんだが……」


 二人の尻尾が、どんどん下がっていく。それを見て何故か申し訳なくなったティオは、


「えっと、では、他にはどの国が賛成を?」


 何とか話題を探した。


 すると、


「ニャハハハッ。それはニャーのことかニャー?」


 可愛らしく、少し高い声が聞こえてきた。

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