第2章 血栓協定と番

第11話 協定と肉球

 翌朝。


「今日はお前に会議に同席してほしいんだ」


 謁見室に呼ばれたティオ・ファリスは、獅子王アラガド・バローグの前にいた。


「会合、ですか」


「ああ、今日は定期的に開いている、協定会合の日だ」


「協定会合……」


「発情期の話は、昨日したな」


「はい」


「俺たち獣人は互いに情報共有し、より良い抑制剤を開発しようと、協定を結んだ。それが、血栓協定だ」


「血栓協定……」


「ああ。この協定に入らないと、抑制剤は配られない。そういう風に俺が定めた」


「上手い事、やりましたね」


 アラガドはふっと笑った。


「お前が先日、試合をした熊国のように、血気盛んで傲慢な獣人は多い。だから、そういう奴らは、大量に寄越せと暴れたりする。それを、鎮めるためだ」


「……抑制剤を飲まないと、みな、行為をしてしまうんですか?」


「……何千年に一人の割合で、抗体がある者がいる、らしい。だが俺は、今日まで会った事がない」


「そうですか……」


 残念そうな顔をしたティオを、アラガドは覗き込んだ。


「頼んでおいてなんだが、大丈夫か?」


「何がですか?」


「ありとあらゆる獣人が集まる。恐らく……、先日より酷い罵声を浴びせられるかもしれない」


「…………」




『何で人間が……』


『どうせ反則技でも使ったんだろ』


『王に菌が感染うつり、亡くならないといいが……』



 ティオは先日言われたことを思い出し、男らしく笑った。


「何を言われようが、この世界は弱肉強食。俺はあの灰色熊グリズリー獣人を打ち負かし、王の専属騎士に選ばれた。自信を持って、立ち向かってやりますよ」


 声を低くしてそう言うと、ティオはニッと笑った。


「——ははっ! それでこそ俺の騎士だ!」


 アラガドは笑いながら立ち上がると、大きな手をティオの頭に置いた。


「そうだ、自信を持って同席してくれ。我が専属騎士よ」


 そして、アラガドは大きな肉厚で、ゴツゴツしているけど、もふもふな手で、ティオの頭を撫でた。


「——……」


 肉球が、自分の頭をポンポンと撫でる。

 動物好きなティオは、またしても、


(私の頭くらいあるのに、もふもふー! 何より肉球がっ、肉球がっ、さ、触りたーい!)


 頬が緩まるのを、止められなかった。

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