第4話 獣人は獣人

「そこまでだ!」


 猪子国レアルト騎士団の奥から、低く空気を通しピリピリと電撃を感じるような、重圧感のある声が響き渡った。


 騎士団全員が左右に分かれ、道を作った。

 その先にいたのは、


(あれが私の仇……、レアルト国王アラガド……!)


 レアルト国王、アラガド・バローグだった。


 毛並みは美しい白色、身長はニメートルは超えている、身につけている黄金の鎧が、彼の毛並みの美しさをより映やしていた。

 毛並みはきちんと切り揃え、整えられている。頭部から頸部にかけてのたてがみは、サラサラでふさふさな毛、丸い可愛らしい耳、房状に体毛が伸長している尾、大きな体に手。そして、瞳は透き通るような、雲のない快晴のような色をしていた。それを見てティオは、


(ふわふわな雲の中にある、小さな空みたいだな)


 と、思い見惚れた。それぐらいアラガドの毛並みや瞳は美しかった。


(いけないいけない! あの人は私の仇なんだから!)


 ティオは首を横に勢いよく振ると、剣を鞘に納め立ち上がった。


「いや、しかし王。まだ第一試合……」


「俺がそこまでと言ったら、そこで試合は終了だ、わかるな?」


 隻眼のレアルト国騎士団団長は、アラガドに威圧感ある声で言われ、


「はっ、はい!」


 姿勢を正した。


「俺の専属騎士は、ディーネ国のティオ・ファリスに決定した」


 アラガドの一声に、会場がどよめいた。


「人間が!?」


「王は錯乱しているのではないか!?」


「まだ第一試合なんだし、もっと相応しい相手が……」


「静まれ!」


 アラガドが声を張り上げると、辺りは一瞬で静かになった。


「先ほど我が国の騎士団団長が言った通りだ! 弱肉強食! 強い者が全て! そして、その者ティオ・ファリスは熊国猛者、ウルドス・ザハークを打ち負かした! その戦いぶりを気に入り! この国の強者の俺が認めた! 何も異論はあるまい!」


「…………」


 誰も、異論はなかった。筋の通った話だった。強者が全て、強者の言うことも全て。


(……やっぱり、王といっても、獣人ね。弱肉強食……。少しでも、僅かでも、期待した私が馬鹿だった)


 ティオは、少し甘い考えを持ってしまった。

 もしかしたら、この王は、情けをかけてくれたのではないか、と。

 国を滅ぼした悔悛かいしゅんで、自分を選んでくれたんじゃないか、と。


 獣人でも、自分たちと同じような考えを、持ってくれている人がいるのではないか、と。


(本当、私って馬鹿。まだまだだね、男になりきれていない。獣人は、どこまでいっても獣人。私たち、いや、俺たち人間の、敵だ)


 ティオは、憎しみを悟らせないようにまっすぐにアラガドを見据え、一礼した。


「光栄です、命を賭して、勤めさせていただきます」


(そう、命を賭して、あなたを討つ!)


 こうして、ティオはアラガドの専属騎士に任命された。

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