男装騎士は獣人王の護衛を今すぐ辞めたい

冥沈導

プロローグ

 人間国、ディーネ。

 人間だけが暮らす、小さな国。

 




 そこに、もう、生者はいない。





 はずだった。





 ディーネの国王と王妃の亡骸は、“何か”を守るように、両側から包むようにして、背中から斬られていた。


 その二つの亡骸が、動いた。


 いや、正しくは、亡骸の下にいた“何か”が。


 その“何か”は、清楚で細かい糸の装飾がきれいな白だった、両親の血で染まった紅のドレスを着た、この国の王女だった。


 彼女は、力なく立ち上がり、両親の亡き骸を上向きに寝かせ、目蓋まぶたを手でそっと押さえて目を閉じさせ、二人の手を重ね合わせた。



「お母さん……、お父さん……」



 彼女の目から止めどなく涙が溢れ、頬を伝い、両親の亡骸に落ちていく。



「獅子国、レアルト……。絶対に、許さないっ……!」


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