第19話 協定会合③

「では、今日はこれにて解散とする、フェルよ、貴重な情報を感謝する」


 獅子国レアルトの国王、アラガド・バローグは、犬国カーネロの国王、フェル・カーネロに向かい、深々と頭を下げた。


「いいえ、当然の事をしたまでです」


 フェルは謙遜した。


「ニャハハー、ニャーは楽しかったからそれでいいニャー。バイッニャー」


 猫国ティコの国王、ガット・ティコは、また入室してきた時と同じように、ルンルンとスキップしながら退室した。


「相変わらず気分屋ですね」


 フェルが苦笑していると、


「おい、ヒョロ人間」


 熊国ベールの国王、ラパス・ベールが唯一の人間であるティオ・ファリスを睨みつけた。


「何か」


「あのクズの代わりに俺が相手をしてやる! 剣を取れやぁ!」


 ラパスが巨体でティオに殴りかかろうとした。

 ティオは剣に手をかけたが、躊躇し、


「おい! ラパス!」


 アラガドが止めに入る前に、


「おい、熊」


 狼国ローボの国王、マクティ・ローボが二人の間に入った。


「あぁー!? やんのかゴラァ!」


「やんねぇよ、協定会合中は争いは御法度なはずだろ。抑制剤を配られなくなってもいいのか」


「あー!? 会合はもう終わっただろぉがよぉ!」


「血栓条約、第一条第四項。帰国するまでが協定会合とする。そんぐらい頭に入れておけ」


 冷静なマクティの声は、


「テメェ! 俺を舐めてんのかぁ!? それか馬鹿にしてんのかぁ!?」


 火に油を注いだ。


「どっちも同じような意味だろ」


「——ぶっ殺してやる!」


「お互い、帰国したらな。いつでも相手してやるよ」


「——早く帰んぞ! モタモタすんなクズ!」


「はいー!」


 ラパスに呼ばれた熊国ベールの猛者、灰色熊グリズリー獣人ウルドス・ザハークは、ビクビクしながら彼の後を追い、退室した。



 二人の姿が見えなくなると、


「あの、助けていただきありがとうございました」


 ティオはマスティに向かい、頭を下げた。


「……別に、アンタを助けたわけじゃねぇ。ラパスの野郎は前から気に食わなかった、それだけだ。俺の個人的な気持ちの問題だ」


 マクティは少し頬を紅潮させると、気恥ずかしそうに頰をかいた。


「マクティさんはぶっきらぼうで、わかりづらいところがありますが、照れ屋なだけで、とっても優しい方ですよ」


彼の隣にやってきたフェルは、ふふっと楽しそうに笑った。


「うっせぇぞ、フェル。さっさと帰るぜ、帰国までが会合だ」


「はいはい」


「ソロもほら、胃薬やるから早くしろ」


「持っているじゃないですかー! さらに酷すぎますー! あんまりですー!」


「あー! うっせぇなぁ! 文句も帰国したら聞いてやるから!」


 三人は賑やかに会話をしながら退室した。




 三人の姿が見えなくなると、


「どんな方かと思いましたが、ラパスさん以外は、愉快で優しい方たちですね」


 ティオは可笑しそうに笑った。


 だが、そんな楽しそうなティオとは違い、


「……そうだな」


アラガドは何故か不機嫌だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

男装騎士は獣人王の護衛を今すぐ辞めたい 冥沈導 @michishirube

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ