第3話

●翌朝

 

 【おはようございます、アーヤ。あなたがよく眠って、世界を征服するエネルギーに満ちていることを願っています。この日を最大限に活用して、あなたが望むすべてのものに恵まれますように。(←ここまで日本語)


 (ここから英語→)英語でコミュニケーションを取ることに自信が持てず、不安になるお気持ち、おさっしします。ですが、私とこうして会話を続けて、互いの意見を分かち合ううちに、あなたの英語は上達します。いかがでしょう?】

 

 なんか、この『いかがでしょう?』の意味がよく分かんなくない? これからもやりとりを続けませんか? ってこと?

 

 都合のいい解釈かいしゃくするな、とか言わないでよ。じゃあ、他にどんな意味だって言うの?

 

 別に問題ないんじゃない? ただのSNSなんだし。


 〖でも、ローランド。わたしはかなり返信が遅いですよ。それでもよろしければ……〗

 

 返信が遅いのは大目に見てほしいよね。日本語みたくスラスラと文章が打てないんだから。それに、スマホじゃ打ちづらいし、家に帰ってからPCで打ってるんだしさ。


●その夜 


 あ、ローランドから返信来た。

 

 【毎日予想外の試練があろうとも、平安なる夜が訪れますように。今夜もあなたにとって素晴らしい夜でありますことを祈っております。


 英語力に多少不安があっても、何とかお話はできそうですね。お互いを理解し合うのは良いことです。


 (ここは日本語→)そして、私がたずねるかもしれない場合は申し訳ありません。他にどんなコミュニケーション手段がありますか?】


 英語と日本語が混ざると読みづらいけど、でも、ローランドはきっと気を遣ってるんだよね。紳士だね♥


●翌朝


 【おはようございます、アーヤ! 新しい恵みと希望、光に満ちた日が、あなたを待ちわびておりました】


 今回はメッセージと一緒に薔薇ばらの花束の画像まであるよ。ちょっと嬉しいね。本物をもらった気分になるわ。

 

 え? こんなの、どこかからの拾い画像に決まってる? またパクリ?

 

 何言ってんの。ローランドが勤めている病院に飾ってあるお花だよ、きっと。

 

 でも、今、時間がないから、後で返信するわ。


●その夜


 あれ? まだ返信していないのに、次のメールが来ちゃった。


 【限りない幸せに満ちた夜をお祈りします。こんばんは、私の甘い友達。今日の職場での活動はどうでしたか?】(日本語)

 

 もー、ローランドったら、そんなにわたしの返信が待ちきれないのかな~?♪


 『私の甘い友達』って何だよ、って? 


 ん~? 何だろうね? そのまま英語にすると 『my sweet friend』だけど……。


 そんなことより、まずは薔薇の花束のお礼をしなきゃね。


 〖きれいな花束をありがとうございます。返信が遅くなってごめんなさい。この猛暑で少し体調を崩してしまっていました 〗

 

 ちょっと、そうちゃん。体調なんて崩してないだろ、とか言わないでよ。嘘も方便ほうべんって言うでしょ。実際、お盆休み明けで、今日から仕事で忙しかったんだから。


 〖でも、今は涼しくて過ごしやすい夜です。今日はお盆休み明けで、凄まじく忙しかったです。それに、同僚がコロナに感染してしまいました。大したことがなければ良いですが……。ところで、今あなたがいる場所の画像を見せていただくことは可能ですか? どんな場所でお仕事をされているのか見てみたいです〗


 【なるほど。それは大変ですね。あなたも感染しないように気を付けてください。画像ですか……。私達は戦地でのテレビ電話やネットでの画像の公開は許されていないんです。居場所が特定されるといけないので。もし見つかると罰則ばっそくを受けるかクビになってしまいます。厳しい規則があります。ここは戦地ですから】


 なるほどね~。ローランドも大変なんだね。考えもなしにお願いして悪いことしちゃったかもね。


  ? あれ?


 【でも、あなたにだけ特別にお見せします。これらの画像は決して人には見せないようにしてください。まだウクライナに来たばかりの時のものですが】


 わぁ、嬉しい♪ 送ってくれたよ。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る