第6話

●夕飯後


 〖夕飯は豚肉の生姜しょうが焼きでした。あなたは毎日、十分に食事と休養を取れていますか?〗


 時間差返信だけど、気遣いを忘れないわたし、えらい!


 【基地の中だと、自宅にいるようには食べたり休んだりはできないです。規則もあるので。でも今はカルテの作成も終わって、ゆっくりできます。夕飯は一人で?】


 返事が早過ぎるって? やっぱり、この人ヒマなのかって? 

 

 たまたまでしょ! ローランド本人も、今はゆっくりできるって言ってるんだし!


 〖食事はいつも両親とです。あなたは厳しい環境でお仕事をしていますね。ところで、あなたは軍医ですか? それともMSF(国境なき医師団)のメンバーか何かですか?〗


 【私は国連のもとで働くMSFのメンバーです。あなたは一人っ子ですか?】


 そうちゃん、またぁ? 何が違うって言いたいの?


 最初は『私はウクライナの国連医師会の外科医として任命されました』って言ってたはずだって? 


 ……そうだっけ? ちょっと待って。検索してみるね。


 あ~本当だね。MSFは民間の非営利ひえいり団体で、国連とは関係ないみたいね。


 単に、あの時も翻訳機能のミスとかだったんじゃないの? ただでさえ変な日本語だったし、別に気にしなくていいと思う。


 え? さっさと話題をすり替えるあたり、やっぱりインチキくさい?


 そんなこと言ったら、ローランド可哀想かわいそうだよ。きっと、仕事とは違う日常的な話題にれたいんだよ。


 でも眠いから、とりあえず今日はもう寝るね。


●翌朝


 わぁ°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖° 真っ赤な薔薇ばらの花の画像が送られてきたよ♪ キレイ!


 え? これだって、どうせ拾ってきたパクり画像かも?


 そんなことないよ。これも病院の中に飾ってあるか、病院の敷地内にあるお花だよ。


 【今日も君にとってめぐみに満ちた一日でありますように。つねに良い選択、良い決断ができますように。最高の笑顔でありますように。お早うございます。よく眠り、爽やかに目覚めることができましたか?】


 ……まあ、また朝の挨拶が後に来ていて、読みづらいけど。やっぱ、ドラマみたいな演出を意識しているのかも。


 〖お早うございます。ステキなお花、ありがとうございます。わたしには兄が一人います。そう言えば、これは最初にくべきでしたが、なぜわたしにDMをくださったのですか? あなたにはフォロワーもたくさんいるようですが……〗


●その夜 


 【今夜も特別な素晴らしい夜でありますように。こんばんは。


 信じてほしいのですが、私は常々つねづね、他人を軽々しくあつかうようなことはしていません。君に連絡をしたのも、特に目的があったわけではないのです。


 ただ、コントロールルームで一人で仕事をしているとさみしさを感じてしまい……。単に、誰かと交流を持ちたかったのです。意見を共有したり、互いの近況を話したり、そんな相手がほしかったのです。理解してもらえるといいのですが……】


 〖最初、DMを受け取った時、てっきりからかわれているのだと思いました。不審者ふしんしゃがウクライナで働く医者をかたっているのだと。


 しかし、あなたはとてもかしこく正直で心優しい、そして勇敢ゆうかんな医師であることが分かりました。戦場でいつも緊張状態でしょうから、息抜きやリフレッシュの時間も必要ですよね。あなたはスーパーマンではありませんし。


 どうぞ、いつでも都合の良い時に、連絡をしてください〗


 我ながら秀逸しゅういつな返信! わたしの聡明そうめいさと思慮しりょ深さと人情のあつさが伝わったよね。絶対に!


 【うーん……なるほど。確かに、私を疑うのも無理はないですね。もしかして、過去に誰かに嘘を付かれたりだまされたりしたことがあるのですか?】


 〖学生時代の、特に中学時代のクラスメイトは嘘つきばかりでしたから。子供の頃、友人には恵まれませんでしたね。今では、テレビでよく嘘つき政治家を見ますけど。ハハハ。


 ところで、こんな見ず知らずのわたしより、家族やお友達と連絡を取り合ってはどうですか?〗


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る